TMS治療のメカニズム

TMS治療のメカニズム

TMS治療は、どのようなメカニズムで効果が発揮されるのでしょうか?

ニューロモデュレーションと呼ばれる治療法のひとつで、磁気の力を電気に変えて脳をピンポイントで刺激する方法です。

少し難しいかもしれませんが、ここではTMS治療のメカニズムについて、できるだけかみ砕いてお伝えします。

治療概要

TMS治療のメカニズム

反復経頭蓋磁気刺激療法(repetitive Transcranial Magnetic Stimulation: rTMS療法)とは、心の病気の新たな治療法になります。

繰り返し磁気刺激(TMS)を行うことで、脳にピンポイントに電気的な刺激を加えます。

それによって脳の機能的な変化を引き起こし、抗うつ効果など様々な効果が発揮されることがわかっています。

脳の中の神経同士の結びつきが柔軟になること(神経可塑性)で本来の脳の機能が回復し、抗うつ効果などが認められるといわれています。

海外と国内での認可

アメリカでは、2008年にアメリカ食品医薬品局(Food and Drug Administration :FDA)に承認されるなど、世界的には標準治療の一つとされております。

日本では2019年6月に保険収載されましたが、制約が大きく入院での治療が基本となってしまいます。

日本では欧米より10年は治療が遅れてしまっており、アメリカで認可されているiTBSといった最新の治療プロトコールは保険診療では行えません。

このため当院のように、クリニックで自由診療で治療されています。

TMS治療の意義

rTMS療法の特徴は大きく2点あります。

  • 治療抵抗性うつ病の方に対しても一定の抗うつ効果が見られること
  • 従来の治療法と比べ、副作用が少ないこと

そのため、薬物治療がうまくいかないうつ病の方に適した新しい治療の選択肢として注目をされています。

また頻回に外来通院が必要となるという治療の性質から、生活習慣の改善や日常生活でのリハビリといった、患者さんの生活の質(QOL)の改善にもつながりやすい特徴もある治療法です。

治療方法

TMS治療のメカニズム

専用のコイルを頭に当てることで治療を行います。

コイルに瞬間的に電流が流れると磁場が発生し、その磁場が変動するとファラデーの法則により微弱な誘導電流が生じます。

rTMS療法では、局所的に電流(渦電流)を発生させることができる特殊なコイルを用います。そのため目的部位以外を刺激してしまうことはありません。

rTMS療法の副作用が少ない理由は、この様に目的部位以外に影響を与えないためと考えられています。

従来のrTMS治療

基本的なrTMS療法では、1日40分ほどのセッションを週5日、3週から6週間(最大30セッション)にわたって行います。

1回あたりのセッションにかかる時間が40分と時間がかかってしまいますが、刺激頻度のパターンを工夫することで大幅に時間短縮できる方法が開発されています。

当院でのiTBS治療

当院では従来のrTMSだけでなく、治療時間が3分程度と短くてすむiTBS(intermittent-シータバースト刺激法)を行っています。

治療時間が短いからといって、治療効果が落ちるわけではないのでご安心ください。治療効果は同等、もしくはそれ以上といわれています。

また、週に3~5回の通院を要するため、患者さんの行動活性化や生活習慣の改善などにつながる一方で、通院が負担になってしまう方もいらっしゃいます。

当院では患者様の治療状況にあわせて刺激方法を工夫し、週2回の通院でも効果が期待できる治療計画を立てていきます。

しかしながら、1回の通院ではどのような刺激方法でも効果的なTMS治療は行うことができません

TMSのメカニズム

TMS治療のメカニズム

TMSは、『ファラデーの法則』を応用し、TMSコイルから誘導された変動磁場によって、神経細胞を間接的に刺激します。

外部から直接に電流の刺激を与えるのではなく、磁場から誘導された電場による間接的な刺激なので、安全であり副作用も少ないのです。

1.ファラデーの法則で磁気から電気へ

マイケル・ファラデーは、イギリスの化学・物理学者です。

みなさんは「電磁誘導の法則」というのを聞いたことはありませんか?

これは現在でも中学物理の教科書に出てくるぐらい有名な法則で、「ファラデーの法則」とも呼ばれています。マイケル・ファラデーは、この電磁誘導の法則を発見した人です。

電磁誘導とは、コイルのそばで磁界を変化させるとコイルに電流が流れる現象です。

この法則を利用して、rTMS療法では発生させた電気で脳の神経細胞を刺激します。

2.どのように刺激するの?

どのように刺激するの?

rTMSでは、「8の字コイル」 を使います。このコイルの中に電流が瞬間的に流れることで、磁場が作られます。

この磁場は、頭皮や頭蓋骨、その下にある軟部組織を通り抜けます

そしてファラデーの法則に従って、8の字コイルと並行する形で、脳内で逆方向の電流(渦電流)を作ります。

この渦電流が脳を刺激するのですが、8の字の交点のところが最も強く磁場がつくられ、最も強い電流が生じます。

このためTMSでは、ほかに影響を与えることなく、脳を局所的に電気刺激することができるのです。(空間分解能5mm程度)

3.刺激して、どうなるの?

脳ではニューロン(神経細胞)同士の情報伝達によって、心の機能(意思や感情)や体の機能(行動や運動)を司る細胞に伝えていく働きをもっています。

その情報伝達は基本的に、電気信号によって行われています。

神経細胞間のつなぎ目をシナプスといい、少しスキマがあります。そのため電気信号を化学信号に変換し、次のニューロンに伝わりやすいようにします。

その化学信号を神経伝達物質とよび、それにより次の神経に情報を伝えているのです。電気信号の情報量に応じて、神経伝達物質の調整が行われます。

うつ病では、この神経伝達物質が過剰なストレスによって、バランスが崩れてしまうと考えられています。

rTMSは渦電流の電気信号によって、脳をピンポイントで繰り返し刺激することができます。

それによりニューロンの軸索に電気信号を発生させて、シナプスでの神経の働きに変化を与えて、神経ネットワークを再構築していると考えられています。

1回の刺激では神経の変化は一時的ですが、rTMS治療を繰り返すことで、その効果が増強されて持続すると考えられています。

従来の薬物療法では神経伝達物質の働きを増強させることで治療効果を期待しているため、TMS治療とはメカニズムが異なります。

TMS治療の効果

TMS治療をご検討の方へ

TMS治療の効果の強みと、向いている患者様をまとめた図表になります。

適切なTMS治療を行っていくためには、TMS治療の知見はもちろんのこと、前提となる心の治療経験が非常に大切です。

当院には10名の精神科医が在籍していますが、両方に精通した医師4名のみ(2021年9月現在)が担当させていただきます。

TMSは治療選択肢のひとつとして、患者さんの立場にたってご相談させていただきます。

TMS治療にご興味お持ちの方は、東京横浜TMSクリニックにご相談ください。

大澤 亮太

執筆者紹介

大澤 亮太

医療法人社団こころみ理事長

日本精神神経学会

精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了