不眠症とTMS治療

原発性不眠症にTMS治療は、「効果はありますがプラセボのインパクトも大きい」と考えられています。

うつ症状に伴う不眠ではTMS治療で睡眠改善することが多く、不眠の原因によって治療方法や期待する効果も異なります

睡眠に良い生活習慣(睡眠衛生教育)を意識しても改善なく、睡眠薬に抵抗があったり減薬したい場合に、TMS治療が活用できる可能性があります。

ここでは不眠症治療において、お薬に頼らないTMS治療の可能性についてお伝えしていきます。

不眠症とは?

不眠症とTMS治療

不眠症とは、1か月以上にわたって睡眠の問題が続き、生活や体調に支障が出ている状態になります。

とくに原因がはっきりしない原発性不眠症と、なんらかの原因がある続発性不眠症に分けることがあります。

不眠症は大きく以下のように分けることができます。

  • 入眠障害
  • 中途覚醒
  • 早朝覚醒
  • 熟眠障害

睡眠改善は生活習慣から

睡眠のことで悩まれている方はとても多く、5人に1人ともいわれています。

不眠症では、その原因によって治療方針が大きく異なります。いずれにしても大切なのは、睡眠により生活習慣を心がけることになります。

そして原因や状態にあわせて、適切なお薬を選択して治療を行っていきます。TMS治療も一つの選択肢になる場合があります。

不眠症について詳しくは、不眠症のページ(こころみ医学)をご覧ください。

不眠症に対するrTMS治療方法と費用

不眠症に対するrTMS治療では、その原因によっても治療アプローチが異なります。

とくに原因がはっきりしない原発性不眠症では、右低頻度刺激でのエビデンスが示されています。

またうつ症状に伴う不眠症では、左高頻度刺激も選択肢となります。

不眠症のTMS治療プラン

このため不眠症のTMS治療としては、大きく2つの方法が行われます。

  1. 右背外側前頭前野への低頻度刺激
  2. 左背外側前頭前野への高頻度刺激

原発性不眠症では大脳皮質が過覚醒の状態にあるといわれていて、右低頻度刺激によって大脳皮質が抑制されるといわれています。

このため原因のはっきりしない不眠では、右低頻度刺激が治療選択肢になります。

その一方でうつ病で左高頻度刺激を行うと、睡眠障害が改善することが多いです。

高頻度刺激は大脳皮質を興奮させるため、誤解を恐れずに表現するならば、頭を無理やり使わせた状態といえます。

うつ症状に伴う不眠はもちろんのこと、減薬目的でTMS治療を行っていく場合は、左高頻度刺激も方法となります。

睡眠障害の治療のためにTMS治療を行っていく場合には、睡眠に良い生活習慣を組み合わせ、原因や目的によって治療計画をたてていく必要があります。

当院でのTMS治療費と症例

当院の治療費については、機械の使用時間をもとに設定しております。

  1. 左高頻度刺激:10分枠  6,930円(税込)※継続 5,280円~
  2. 右低頻度刺激:20分枠 13,200円(税込)※継続 9,900円~
  3. 右低頻度刺激:30分枠 15,840円(税込)※継続 12,320円~

治療費について詳しくは、TMS治療費のページをご覧ください。

当院でのTMS症例(不眠症)

不眠症に対するTMSのエビデンス

不眠症に対するTMSのエビデンス

※「2020年11月26日に国立京都国際会館で開催されたアドバンスド・レクチャーで、野田賀大が発表した講演内容」より改変

こちらの論文では、右DLPFCの低頻度刺激を30日以上行った場合のみエビデンスが示されています。

もうひとつ特徴的であったのが、プラセボ効果の大きさです。そしてその効果は、治療期間が延びると増強しました。

30日以上TMS治療を行った場合に、プラセボと有意差が認められています。

不眠症に対するTMSのエビデンス

論文について詳しくは、【不眠症に対するrTMSの効果:システマティックレビューとメタアナリシス】をご覧ください。

その他の論文

2013年に発表されたRCTでは、TMS治療は不眠を有意に改善させ、再燃再発率も低いという結果となっています。

徐波睡眠(ステージⅢ)とレム睡眠が改善し、睡眠構造の改善をもたらすと報告されました。【慢性原発性不眠症患者の治療におけるrTMSの有効性】

大脳皮質の興奮が抑えられることで、短期間のシナプス可塑性が誘導される可能性があるとされています。

2021年のメタアナリシスでも、rTMSは不眠に対して有効で、睡眠潜時や睡眠障害、睡眠薬の使用の改善に良いだろうという結論となっています。【不眠症に対するrTMSの効果:システマティックレビューとメタアナリシス】

睡眠の質的な異常に対するTMS治療

不眠症に対するTMSのエビデンス

むずむず足症候群(レストレスレッグ症候群)では、一次運動野か補足運動野での高頻度と低頻度の両方のrTMSが一時的に有効という報告があります。

また睡眠中に上気道筋をTMS地激することで、睡眠時無呼吸症候群の症状改善も期待されています。

そして左DLPFCの高頻度刺激が、脱力を伴うナルコレプシーへの効果や、睡眠時の歯ぎしりを改善するかもしれないという報告もあります。

まだまだ少ない報告レベルで研究途上ですが、睡眠の質的な障害に対しても治療効果がわかってくるかもしれません。
【睡眠障害のある被験者でのrTMSの効果】

睡眠に良い生活習慣

不眠症の治療を行っていくにあたっては、睡眠によい生活習慣に取り組むことが大切です。

厚生労働省から、「健康づくりのための睡眠指針2014」が発表されています。

それをもとに、以下の3つのポイントを意識することが大切です。

  • リズム
  • 体温
  • 自信

詳しくは、不眠症を生活習慣から解消する方法(元住吉こころみクリニックHP)をご覧ください。

不眠症での薬物療法

睡眠により生活習慣と不眠症の治療法をイラストでご紹介します。

現在は様々なタイプの睡眠薬が発売されています。それぞれの睡眠薬の特性を生かしながら、睡眠に良い生活習慣を組み合わせて治療していきます。

睡眠薬は漫然と使っていると、なかなか中止できなくなってしまいます。

不眠症自体が治っていないというよりも、睡眠薬が体に慣れてしまうことで、減薬すると反跳性不眠が生じてしまいます。

このため、「同じ薬を飲めば眠れるけど、やめると眠れなくなってしまう」という常用量依存と呼ばれる状態となってしまいます。

睡眠薬以外の方法

お薬も睡眠薬だけでなく、抗うつ剤や抗精神病薬などを睡眠改善の目的に使っていくこともあります。状態によっては、睡眠薬よりも効果が期待できることがあります。

TMS治療もお薬と同様で、状態によって治療方法を検討していく必要があります。

またお薬をなかなかやめられずに困っている患者様にとっては、減薬目的でTMS治療が活用できる場合があります。TMS治療によって睡眠薬が減らせれば、少しずつ減薬の影響を和らげることができます。

睡眠薬の減薬とTMS治療

睡眠薬について詳しくは、睡眠薬のページ(元住吉こころみクリニックHP)をご覧ください。

TMS治療をご検討の方へ

TMS治療の効果の強みと、向いている患者様をまとめた図表になります。

不眠症に対して、TMS治療のエビデンスは十分ではありませんが、治療に活用することはできます。

TMS治療による効果と睡眠に良い生活習慣、適切なお薬の使い方などを組み合わせることで、減薬につながることもあります。

このように適切なTMS治療を行っていくためには、TMS治療の知見はもちろんのこと、前提となる心の治療経験が非常に大切です。

当院には10名の精神科医が在籍していますが、両方に精通した医師4名のみ(2021年9月現在)が担当させていただきます。

TMSは治療選択肢のひとつとして、患者さんの立場に立ってご相談させていただきます。

TMS治療にご興味お持ちの方は、東京横浜TMSクリニックにご相談ください。

大澤 亮太

執筆者紹介

大澤 亮太

武蔵小杉こころみクリニック院長

日本精神神経学会

精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了