産後うつ病とTMS治療
出産後に不安定になってしまうのは、多くの方が経験されています。
ですが産後うつ病として治療が必要な場合もあり、授乳を考えるとお薬に抵抗がある方も少なくありません。
そのような産後うつ病に対して、TMS治療は非常にメリットのある治療法になります。
授乳中のお母さんにとっては、お薬を使わずに安心して治療することができます。
ここでは、産後うつ病について詳しくお伝えし、新しい治療法である磁気刺激療法(TMS治療)もご紹介させていただきます。
産後うつ病とは?
女性にとってお子さんを授かることは、最も重大なライフイベントの一つです。
そして同時に、ホルモンバランスや体の調子だけでなく、生活様式も一変します。喜びの感情とともに、不安や落ち込みなどが強まってしまうことがあります。
もともと「マタニティーブルー」と呼ばれる軽度のうつ状態を経験することは、かなりの新しいお母さんにみられます。
マタニティーブルーの症状は、気分の不安定さ、不安や不眠などがありますが、通常は出産後の2~3日以内に始まり、2週間ほどで落ち着くことがほとんどです。
マタニティーブルーより深刻
しかしながら一部で、産後うつ病(産褥期うつ病)として知られる、より重度で長期にわたるうつ病が認められることがあります。
まれに幻覚や妄想を伴うような、産褥精神病を発症することもあります。
産後うつ病にしっかりと対処することは、お母さんの症状が安定し、生まれたばかりの赤ちゃんとの絆を深めるのに非常に重要です。
マタニティーブルーは多くの方が経験するものではありますが、症状がひどい場合は専門家に相談することが大切です。
よくある症状と注意すべき症状
産後うつ病の症状や兆候としては、以下のようなものがあります。
- 気分の落ち込みや情緒不安定
- 過剰に涙もろい
- 不眠もしくは過眠
- 食欲不振もしくは過食
- 集中力や決断力の低下
- 過度な倦怠感やエネルギーの喪失
- 楽しかった活動への関心や興味の減少
- 極度の過敏性やイライラ
- 落ち着きのなさ
- 重度の不安やパニック発作
- 家族や友人を避けるようになる
- 良い母親になれない自責感
- これからへの極度の悲観的な感情
- 自分の無価値観や罪悪感
- 赤ちゃんと絆を築けない
- 自分や赤ちゃんに手を出そうという考え
- 自殺についての繰り返す考え
すぐに専門家へ相談すべき症状
特に以下のような症状が認められた場合は、すぐに専門家に相談しましょう。
当院も中原区保健所と連携させていただくことが多いですが、地域の保健士さんなども親身に相談にのってくださいますのでご安心ください。
- 2週間たっても続く症状
- 赤ちゃんの世話が困難
- 家事や育児が全体的に困難
- 自分や赤ちゃんを手をだそうとしてしまう考え
- 自殺に対する考え
うつの真っただ中では、希望が見えないかもしれません。
パートナーや専門家、地域のサポートの方と相談していくなかで、少しずつご自身を取り戻していくことができます。
遺伝が原因?環境が原因?
産後うつ病には多くの原因が関係しているといわれています。遺伝要因と環境要因が重なっていると考えられています。
環境要因としては、以下の2つが大きいといわれています。
- 体内ホルモンの変化
- 生活や感情の変化
エストロゲンやプロゲステロンといった生理周期に伴うホルモンの変化が急激に起こります。
出産直後にこれらのホルモンが急激に低下することは、産後うつ病を引き起こす最大の原因と考えられています。
また、甲状腺ホルモンの低下する場合もあり、疲労感や倦怠感、気分の落ち込みにつながる可能性があります。
そして出産すると、生活が一変します。授乳のために睡眠不足は続き、十分に休まることができません。
無力な赤ちゃんを育てていくことに圧倒されてしまったり、これから育児をしていくことの不安感も強ってしまいます。こういったストレスも原因となります。
産後うつ病のリスクファクター
産後うつ病になる可能性を高める要因として、以下のようなことが関係している可能性があります。
- うつ病の既往歴があること
- 双極性障害であること
- 以前の出産後も産後うつ病になったこと
- うつ病などの気分障害の家族歴があること
- 過去1年にストレスの多い出来事を経験したこと
- 妊娠中に合併症があったこと
- 双子や三つ子などであること
- 赤ちゃんが健康上の何らかの問題があること
- 母乳保育が困難なこと
- パートナーとの関係性が不良なこと
- 周囲のサポートが得られないこと
- 望まれた妊娠でなかったこと
- 経済的な問題を抱えていること
薬物療法とそのデメリット
産後うつ病の治療は、薬物治療が中心となります。
うつ状態の改善のために抗うつ剤が使われることが一般的です。
抗うつ剤の授乳への影響
抗うつ剤は授乳への影響は少ないと考えられていますが、母乳へ移行してしまうことは避けられないのが難点です。
このためお薬の添付文章では、「授乳を避けること」と記載されています。
TMS治療という選択肢
しかしながら産後の不安が強い状況では、お薬に抵抗が強い方も少なくありません。そしてお薬を使っても、その効果が十分でない方もいらっしゃいます。また治療効果が認められるのに1~2か月ほどかかるため、状況が許されない場合もあります。
そのような場合、TMS治療は有効な治療法であると考えられています。
産後うつに対するrTMS治療方法と費用
rTMS治療は、産後うつ病に対する治療効果が期待できます。
TMS治療のうつ症状に対する効果は、以下をお読みください。
産後うつ病でのTMS治療プラン
産後うつ病でのTMS治療では、大きく2つの方法が考えられます。
- 左背外側前頭前野への高頻度刺激
- 右背外側前頭前野への低頻度刺激
うつ症状が顕著で睡眠障害が目立つ場合は、左高頻度刺激から始めていくことが多いです。
しかしながら不安が強い場合は右低頻度刺激の方が適切な場合もあり、また産後うつ病のなかには双極性障害が隠れている場合もあります。
その場合は躁転リスクも含めて、慎重に判断していく必要があります。
当院でのTMS治療費
当院の治療費については、機械の使用時間をもとに設定しております。
- 左高頻度刺激:10分枠 6,930円(税込)※継続 5,280円~
- 右低頻度刺激:20分枠 13,200円(税込)※継続 9,900円~
- 右低頻度刺激:30分枠 15,840円(税込)※継続 12,320円~
治療費について詳しくは、TMS治療費のページをご覧ください。
産後うつ病に対するTMSのエビデンス
産後うつ病に対してTMS治療は、有効な治療方法になります。
こちらの論文によれば、産後うつ病に対するTMS治療はおそらく有効で、安全性は高いという結論となっています。
論文について詳しくは、【産後うつ病(周産期うつ病)でのrTMS治療の安全性と有効性のシステマティックレビュー】をご覧ください。
完全に良くなるのが3割といわれると、少し少ない印象があるかもしれません。
しかしながら実際の治療では、うつ病と同等の治療効果は期待できます。3~5割が寛解、2~3割が反応するために7割程度が治療効果を実感できます。
TMS治療とあわせて心理的な治療を行ったり、サポートで薬物療法を行うこともあります。
その他の論文
患者様が実際にどれくらい良くなるかは、非盲検での研究(TMS治療群と偽刺激群がわかる状態で調べた研究)も参考になります。
2016年に発表された非盲検の論文では、25人の産後うつ病の女性が週5回8週間のrTMS治療を受けたところ、25人中19人が治療継続となりました。
そのうち14人(73.7%)では、8週間までに寛解(本来の状態を取り戻す)となっています。
TMS治療をご検討の方へ
適切なTMS治療を行っていくためには、TMS治療の知見はもちろんのこと、前提となる心の治療経験が非常に大切です。
当院には10名の精神科医が在籍していますが、両方に精通した医師4名のみ(2021年9月現在)が担当させていただきます。TMSは治療選択肢のひとつとして、患者さんの立場に立ってご相談させていただきます。
TMS治療にご興味お持ちの方は、東京横浜TMSクリニックにご相談ください。
執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了