自閉症スペクトラム障害の治療のための反復経頭蓋磁気刺激(rTMS):システマティックレビューとメタアナリシス
こちらの論文は、
のページに引用しています。
発達障害に対してのTMS治療は根拠不十分
こちらの論文は、発達障害に対るTMS治療についての研究を集めてきて、統計的に分析したものになります。
そもそもとして、発達障害に対するTMS治療の報告自体が多くはなく、そのほとんどが盲検化ができていませんでした。
例えば実刺激と偽刺激を比較したとしても、治療者がどちらかわからないようにしなければ、客観性が担保できません。
どうしても実刺激をしている方が治療効果がでているように感じやすく、そのようにして評価した結果はエビデンスが低くなってしまいます。
発達障害に対しては、現時点ではターゲットも定まっていません。
左右のDLPFCや背内側前頭前野、右TPJなどをターゲットに、TMS治療が研究されています。
これらを総合的に分析すると、常同行動や社会性、実行機能での中程度のエフェクトサイズが示されてはいますが、研究の質が低くて根拠は乏しいといわざるを得ないという結論です。
発達障害自体が脳の微細な機能異常などが背景にある可能性が高く、TMS治療が応用されることが期待されます。
しかしながら現在一般的に行われている治療プロトコールでは、発達特性を改善することは期待できないといわざるを得ません。
論文のご紹介
英語原文は、こちら(Pub Med)をご覧ください。以下、日本語に翻訳して引用させていただきます。
背景
自閉症スペクトラム障害(ASD)は、生涯にわたる社会的コミュニケーションや相互作用の障害に加え、限定された反復的な行動、興味および活動を示す神経発達障害である。
自閉症に対する特異的な薬物療法やその他の物理的治療法はないが、近年、非侵襲的な神経調節(ニューロモデュレーション)を行う手法である反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)が治療効果の可能性から注目を集めている。
ここでは、ASDの治療にrTMSを使用することについて、系統的な文献レビューとメタアナリシスの結果を報告する。
方法
PubMed、Web of Science、Science Direct、Bielefeld Academic SearchおよびEducational Resources Information Clearinghouseで系統的な文献検索を行った。
検索語は、関心のある診断と治療法を反映したものとした。ASDの中核症状またはASDの認知症状の治療にrTMSを使用したことを報告した研究が対象となった。
2人の研究者が、PRISMAガイドラインに従って論文の選択とデータの抽出を独立して行った。
ASDの臨床スコアまたは認知パフォーマンスの変化を主なアウトカムとした。
ランダム効果メタアナリシスモデルを実施した。
結果
4件の症例報告、7件の非対照臨床試験および12件の対照臨床試験からなる23件の適格な報告が見つかり、実際のTMSの効果を待機リストコントロール(n=6)または偽刺激(n=6)と比較した。
メタアナリシスの結果、反復的・ステレオタイプ的な行動、社会的行動および実行機能タスクのエラー数に対して、有意だが中程度の効果が認められたが、その他のアウトカムは認められなかった。
ほとんどの研究はバイアスのリスクが中程度から高いとされたが、その原因のほとんどは被験者と評価者の治療割り付けの盲検化がなされていなかったことであった。
また、5つの研究のみが、これらの改善の安定性を最長6カ月間報告し、改善が長期にわたって維持されていると記述していた。
結論
TMSがASDのいくつかの側面の治療に有用であることを既存の証拠が裏付けている。
しかし、ほとんどの研究がプラセボ効果を十分にコントロールしていないため、このような証拠は慎重に考慮する必要がある。
さらに、最も効果的な刺激パラメータ、ターゲットおよびスケジュールについてはほとんど分かっていない。
これらの疾患に対する経頭蓋磁気刺激の有効性を検証するためには、十分な追跡期間を設けた、さらなるランダム化二重盲検偽刺激対照試験が緊急に必要である。
現在得られている証拠は予備的なものであり、ASDの治療にTMSを用いることを支持するには不十分であると考えるべきである。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:こころみ医学 投稿日:2021年3月20日
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