双極性うつ病患者に対するiTBSの有効性に関する偽刺激と実刺激の比較:ランダム化臨床試験

こちらの論文は、

のページに引用しています。

双極性障害ではiTBS刺激の有効性は示せなかった

こちらの論文では、2021年に発表された双極性障害のうつ状態に対するiTBSのRCTになります。

CANMATのガイドラインに従ってファーストラインの治療を行っても、改善が乏しかった双極性障害うつ状態の方を対象としています。

何らかの気分安定薬や抗躁薬を服用されている方になるので、双極性障害としての診断が間違いない方が対象と思われます。

こちらの研究では、iTBS治療がプラセボと比較して、有効性を示すことができませんでした。

そして1名の方が治療中に軽躁エピソードが認められています。

症例数が少ないので効果の有無については結論がでませんが、単極性うつ病ではiTBSはrTMSと同等の治療効果が認められたため、双極性障害では効果が示せなかったことは残念な結果となります。

双極性障害では抗うつ剤の反応が一定しないのと同様に、iTBSでは効果が一定しない可能性があります。

iTBSとrTMSは異なる治療メカニズムがある可能性があり、同じように脳皮質を興奮させる治療プロトコールですが、iTBSでは双極性うつ状態には効果が期待しにくいのかもしれません。

iTBSは認知機能の改善効果から治療効果が期待しているため、双極性障害の内因性の気分の変動には効果が不十分なのかもしれません。

この論文を踏まえると、明らかな双極性障害は右低頻度rTMS刺激を基本として、反復性うつ病性障害のようにbipolarity(双極性)は認められるもののうつ状態を中心とする場合にはiTBSを検討するのがよいかもしれません。

双極性障害の診断はイメージよりも簡単ではなく、躁転のリスクもあるので臨床経験が必要となります。

双極性障害で治療を検討される際には臨床経験のある医師の判断が重要になります。

論文のご紹介

双極性うつ病に対するiTBSの効果のRCTをご紹介します。

英語原文は、こちら(Pub Med)をご覧ください。以下、日本語に翻訳して引用させていただきます。

重要性

双極性障害の大うつ病エピソードは一般的であり、患者を衰弱させるものである。

反復経頭蓋磁気刺激は大うつ病性障害の治療において確立されており、間欠的シータバースト刺激(iTBS)プロトコルは非劣性と配信時間の短縮から従来のプロトコルに取って代わりつつある。

しかし、iTBSは双極性障害では十分な研究がなされておらず、したがってその有効性は不確かである。

目的

急性双極性障害うつ病の治療において、左背外側前頭前野(LDLPFC)へのiTBSが安全で有効であるかどうかを明らかにする。

デザイン、設定および参加者

本研究は、LDLPFCを標的としたiTBSの二重盲検、4週間のランダム化臨床試験であった。

カナダのアカデミックセンター2施設が2016年から2020年にかけて患者を募集した。

急性大うつ病エピソードを経験している双極性障害I型またはII型の成人は、Canadian Network for Mood and Anxiety Treatmentsが推奨する急性双極性うつ病の第一選択治療で効果が得られず、現在、気分安定薬、非定型抗精神病薬またはそれらの併用療法で治療を受けている場合に適格とした。

71名の参加者が適格性を評価され、37名が現在の薬物療法に応じて層別された乱数列を用いて、偽刺激群または実刺激群に毎日無作為に割り付けられた。

データ解析は2020年4月から9月まで行われた。

介入

LDLPFCへ実刺激(安静時運動閾値の120%)または偽刺激を4週間毎日実施した。

非反応者は4週間の非盲検iTBSを受けることができた。

主要アウトカムと測定法

主要アウトカムは、ベースラインから試験終了までのMontgomery-Asberg抑うつ評価尺度のスコアの変化であった。

副次アウトカムは、臨床反応、寛解および治療により生じた躁病または軽躁病であった。

結果

37名の参加者(女性23名[62%];平均[標準偏差]年齢、43.86[13.87]歳;年齢幅、20~68歳)の内、19名が偽刺激群に、18名が実刺激群に無作為に割り付けられた後、試験は無益で終了した。

Montgomery-Asberg抑うつ評価尺度のスコアの変化に有意な差はなく(群間の最小二乗平均差、偽刺激群で-1.36[95%信頼区間、-8.92~6.19;P=0.91])、臨床反応率は二重盲検期(偽刺激群19名中3名[15.8%]、実刺激群18名中3名[16.7%])および非盲検期(21名中5名[23.8%])ともに低かった。

実刺激群のうち1名が治療上の緊急軽躁状態に陥り、非盲検治療中に2回目のエピソードが発生した。

結論と関連性

LDLPFCを標的としたiTBSは、抗躁薬や気分安定薬の投与を受けている患者の急性双極性うつ病の治療には有効ではない。

経頭蓋磁気刺激の治療プロトコルが単極性うつ病と双極性うつ病の間の有効性面でどのように異なるかを理解するためには、さらなる研究が必要である。

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執筆者紹介

大澤 亮太

医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師

日本精神神経学会

精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了

カテゴリー:こころみ医学  投稿日:2021年3月27日

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