不眠症に対する反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)の効果:システマティックレビューとメタアナリシス
こちらの論文は、
のページに引用しています。
不眠症では右低頻度刺激
こちらの論文は、不眠症に対するrTMS治療の効果について、2019年8月までの研究を集めて解析したものになります。
TMS治療の効果は、睡眠の改善から実感されることも多く、不眠治療に対しても効果が期待されていました。
基本的には脳の皮質の興奮を抑える方向の方が効果が期待しやすいと考えられ、右DLPFCをターゲットに低頻度刺激を行うことで抑制するTMS治療プロトコールが研究されています。
睡眠には、ノンレム睡眠とレム睡眠が認められますが、rTMS治療では、ノンレム睡眠を深いステージ(徐波睡眠)にして、レム睡眠を増やす方向に作用が期待されています。
今回の研究でわかったことは、30日以上のrTMS刺激を行うことで、プラセボと比較して明らかに改善効果が期待できたということです。
また他のTMS治療と比べても、不眠症のプラセボの効果が非常に大きく、その効果は回数を重ねるごとに高まることです。
このようにみれば、睡眠は心理的な影響も非常に大きいということが分かると思います。
論文のご紹介
英語原文は、こちら(Pub Med)をご覧ください。以下、日本語に翻訳して引用させていただきます。
背景
反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)は、不眠症の治療において有望な技術であるかもしれない。
利用可能な文献の包括的なメタ分析を行い、エビデンスを提供する。
目的
不眠症に対するrTMSの有効性と安全性を、単剤療法として、または補完的な戦略として評価すること。
方法
CENTRAL、PubMed、EMBASE、PsycINFO、CINAHL、PEDro、CBM、CNKI、WANFANGおよびVIPを記録の早い時期から2019年8月まで検索した。
不眠症患者に対するrTMSの効果を検討しており、英語および中国語で発表されたランダム化対照試験(RCT)を対象とした。
2名の著者が独立して、論文の選択、データ抽出および評価を完了させた。
収録された研究の方法論的品質の評価には、PEDro(Physiotherapy Evidence Database)スケールを用いた。
メタアナリシスにはRevManソフトウェアを使用した。
エビデンスの質は、GRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)アプローチにより評価した。
結果
28件の適格な研究から合計36件の試験が組み入れられ、合計2357名の成人被験者が組み入れられた(平均年齢48.80歳、男性45.33%)。
偽刺激群と比較して、実刺激群はPSQIトータルスコア(SMD:-2.31、95%信頼区間:-2.95~-1.66;Z=7.01、P<0.00001)および7つのサブスケールのスコアの改善と関連していた。
他の治療法と比較して、他の治療法の補助としてのrTMSは、PSQIトータルスコアの改善(SMD:-1.44、95%信頼区間:-2.00~-0.88;Z=5.01、P<0.00001)と関連し、7つのサブスケールのスコアに影響を及ぼす可能性があった。
他の治療法と比較して、rTMSはPittsburgh睡眠の質指数(PSQI)総合スコアの改善と関連し(SMD:-0.63、95%信頼区間:-1.22~-0.04;Z=2.08、P=0.04)、7つの下位尺度のうち、睡眠潜時、睡眠障害および催眠使用のスコアがより良いかもしれない。
3組の比較では、睡眠ポリグラフ(PSG)の結果にばらつきがあった。
一般的に、rTMSは徐波や急速眼球運動(REM)睡眠を増加させることで、睡眠の質を改善すると考えられる。
実刺激群は、偽刺激群またはブランク対照群と比較して、頭痛を起こしやすかった(RR:1.71、95%信頼区間:1.03~2.85;Z=2.07、P=0.04)。
重篤な有害事象は報告されなかった。本メタアナリシスの結果を解釈する際には、報告の偏りや一部のエビデンスのグレードが低い、または非常に低いことを考慮する必要がある。
結論
今回の結果から、rTMSは不眠症に対して安全かつ有効な選択肢となり得ることが示された。
今後は、より客観的で生活の質に関連した評価と追跡調査を伴う、国際的で多施設の質の高いRCTが必要である。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:こころみ医学 投稿日:2021年3月20日
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