TMS治療の「保険診療」「自由診療」の違いとは?
お薬を用いないうつ病の治療法として、薬物治療の副作用が強い方などにも選ばれているrTMS治療(反復経頭蓋磁気刺激療法)。
磁気を用いて脳に刺激を与えて、脳の働きを正常に制御する治療法です。
日本では2019年6月にTMS治療は保険適用となり、国内の認知度も高まりつつあります。
とはいえ、「どれくらいの費用がかかるの?」「誰でも保険適用になるの?」と疑問を持つ方も多い印象です。
ここでは、TMS治療の保険診療と自由診療の違いについて、詳しく解説します。
目次
TMS治療を受ける4つの方法
まずは、TMS治療を受ける際の種類についてご説明します。
日本でTMS治療を受けるには、大きく分けて以下の4つがあります。
保険診療
うつ病の患者さまが対象で、特定のTMS機器での治療に対してのみ保険が適用されます。
適用条件が設けられていて、対象とならなければ行うことができません。
施設の要件も厳しく、大学病院や総合病院などの規模の大きいところで実施していることがほとんどです。
このため、保険診療でのTMS治療を提供している医療機関の数はとても少ないです。
自由診療
保険診療の適用条件の厳しさを考えると、2021年現在、うつ病の患者さまがTMS治療を希望した際は主に自由診療になることが多いです。
自由診療の場合、医療機関によって治療スタンスや倫理観に大きな差があり、費用にも幅があります。
信頼できる医療機関を選ぶポイントについては、後半でご紹介させていただきます。
安心して治療を継続するために、TMS治療をお考えの方はぜひ参考にしてください。
先進医療B
双極性障害の患者さまが対象で、特定の医療機関で実施されている方法です。
臨床試験となるので自己負担額はありませんが、正確な効果検証のために厳密な条件が設けられており、希望した場合でもすべての方が受けられるわけではありません。
臨床研究・治験
大学病院などの、規模の大きな医療機関で行われているものが臨床研究です。
研究に協力する形で参加するため、自己負担額はありません。
こちらも正確な研究結果のために、参加するには細かな条件をクリアする必要があります。
現実的な治療選択肢
このように「3.先進医療B」「4.臨床研究」に関しては、受け入れの条件や基準が厳しく、実施している医療機関も限られてしまいます。
スムーズに治療を進めるには、「2.自由診療」が主な方法となっています。
「保険診療」のTMS治療
日本では、2019年6月にTMS治療の保険適用が認められました。
「保険適用の治療法なら、保険で受けたい!」と希望する方もいるかと思いますが、適用条件が厳しく、保険診療でTMS治療を受けている方はまだまだ少ないのが現状です。
TMS治療の保険適用の条件
- 成人である
- うつ病と診断されている
- 過去に抗うつ剤の薬物治療を受けている
- 薬物治療で効果が不十分
- 中等度うつ病である(精神病症状や希死念慮を伴う重症うつ病はNG)
- 2ヶ月の入院が可能である(入院までの待機期間もあり)
- 決められた機器とプロトコールで行う(6週間以内に30回)
このように保険適用の条件が厳しいために、保険診療の対象になる方は全体の2割にも満たないのが現状です。
TMS治療を「保険診療」で受けた場合の費用
保険診療で発生する費用は、主に以下の3つです。
- 診療に関わる自己負担
- 入院の際のベッド代(0~3万円)
- 日常の生活費(入院の際に個人で購入する飲食費や衣服費など)
診療に関わる自己負担額は、ほとんどの場合「高額療養費制度(こうがくりょうようひせいど)」の対象になります。
高額療養費制度とは、医療費が高額になった場合、一定の金額を超えた分が後日払い戻される制度です。医療費の上限額は、年収によっても異なります。
保険診療でTMS治療を受けるには、「6週間の間に30回」治療を行う必要があります。
高額療養費制度を使った自己負担額がいくらになるかは、個人差があるため一概には言えませんが、日本人の平均年収「436万円」で、かつ「国民健康保険に加入している」と仮定すると、以下の自己負担額が想定されます。
高額療養費の上限(治療に関する自己負担額):約160,000円
1セッションの自己負担額:約5,300円
ただ、上記はあくまで参考程度です。人によっては、医療費がさらにかかる可能性もあります。
実際の医療費がどれくらいになるかは、ご自身で調べるよりも、保険診療のTMS治療を提供している各医療機関に確認するほうが確実でしょう。治療費を確認したうえで、実際に治療を進めるか検討してもいいかと思います。
入院生活になりますので一概に比較はできませんが、TMS治療費ということで考えると、当院のようにリーズナブルな自由診療のクリニックでも同水準の費用となります。詳しく知りたい方は、以下をお読みください。
保険診療でのTMS治療が普及していない理由
TMS治療の保険診療が認められるようになりましたが、当院のようなクリニックでは保険診療を行うことができません。
まずは施設基準として、病床がなければ行うことができない内容となっています。
残念ながらTMS治療は、病院でもあまり普及していません。その理由としては、以下の3点があります。
- 認知行動療法に熟知した医師が勤務している必要があること
- 機械が非常に高額で、消耗品も高いこと
- 1回の治療に時間がかかること
認知行動療法の研修を受けた専門家が在籍している必要があり、そのような医師が安定して勤務している病院は少ないです。
また保険適用となるTMS治療機器はニューロスターのみとなり、スーパーカーレベルの購入費用がかかります。消耗品につきましても、1回の診療報酬が1.2万円に対して1万円ほどかかるといわれています。
さらに治療法も決められており、37.5分のrTMS治療のみとなっています。このため時間もとられてしまいます。
このような制約があるため、病院でTMS治療に取り組まれているのは学術的な関心が高いか、純粋に治療選択肢を増やしたい場合のみとなります。
利益をうむどころか、赤字になってしまうのが現状なのです。
今後のTMS治療の「保険診療」について
「どうして保険適用は条件が厳しいの? 希望する人がみんな保険で受けられるようにしてほしい」と疑問を持つ方もいるかと思います。
私たちとしてもTMS治療を希望する方がスムーズに治療に進めるよう、保険診療が拡大していくことを願っています。
そもそも、どうして保険適用が難しいのか? という点について、個人的な見解を述べさせていただきます。
乱立して医療費が高騰する可能性がある
保険診療でのTMS治療が身近になると、「とりあえずTMS治療をやってみよう」という流れになる可能性もあります。
TMS治療は副作用が少ないため、すでに自費診療では、適応外に対しても営利的に治療誘導している医療機関も少なくありません。
TMS治療の保険診療が広まることはとても喜ばしいのですが、その結果、医療費が高騰してしまうリスクはゼロではありません。
そのため、「とりあえず……」の軽い気持ちでTMS治療を受ける方が増えると、不必要な医療費が増加してしまうことになりかねません。
保険診療を広めるカギは?
保険診療を広めるために必要なものは、適切にTMS治療を届けられる枠組み作りだと考えています。
「どんな疾患にもTMS治療が効果あり」と適応外治療が拡大していくことは、この流れに逆行してしまいます。
TMS治療は、基本はうつ症状の改善を目的として行っていく治療になります。
うつに対する治療効果がハッキリしていき、治療選択をされる方が増えていくことで、保険診療のハードルも下がっていくのではと期待しています。
保険診療でのTMS治療の要件のひとつに、HAM-Dという心理検査の評価があります。
HAM-Dは治験や臨床研究などでも行われる心理検査ですが、当院ではHAM-Dに加えてMADRSを測定して治療効果を蓄積しています。
こういったデータが蓄積していけば、TMS治療の費用対効果を検討することができます。
うつ病は社会的損失の大きな病気ですので、短期間で治療ができ、再発率が低いTMS治療は、遠くない将来にリーズナブルな治療法として保険適用されていくと信じています。
「自由診療」のTMS治療
さて、ここからは自由診療について詳しく解説していきます。
保険診療の厳しい適用条件を考えると、実際にTMS治療を受ける場合、多くは自由診療になるかと思います。
どんな人が自由診療に向いているの?
- 抗うつ剤の薬物治療を受けた経験がない
- 軽度のうつ病で苦しんでいる
- 現実的に考えて、入院治療は困難である
- 短期集中治療をしたい
- すぐに治療を始めたい
保険診療でTMS治療を受けるためには、「過去に抗うつ剤の薬物治療を受けている」「2ヶ月ほどの入院が可能である」などが前提条件となってきます。
これが難しい場合は、自由診療で受けられる医療機関がご自身の行動範囲内にないか、ぜひ確認してみましょう。
自由診療のメリットは、希望する方は比較的スムーズに治療を受けられる、ライフスタイルに合わせて治療の計画を立てられる、などがあげられます。
また、保険適用の治療ルールに縛られずに、欧米の新しいTMS治療(短期集中治療など)が行えるメリットもあります。
TMS治療を「自由診療」で受けた場合の費用
TMS治療が日本で広まり始めたころは、高額な治療費を設定している医療機関も多数ありました。
残念ながら、いまだに高額な治療費を設けているところもあります。
ですが、近年では患者さまが治療を受けやすいように、料金設定をリーズナブルにしている医療機関も増えてきました。
医療機関によっては、保険診療とそこまで差がない金額でTMS治療を受けることも可能です。
医療機関によって幅はありますが、全体の相場としては以下が目安になるでしょう。
TMS治療を30回実施した場合の費用相場:120,000円~360,000円
1セッションあたりの費用相場:4,000円~12,000円
信頼できる医療機関を選ぶコツ
大切なのは、自由診療であっても、保険診療であっても、「この医療機関は信頼できるか?」と医療機関ごとに判断することです。
では、どのように信頼できる医療機関を選べばいいのでしょうか。
まず重要なのは、やはり治療費です。
いくつかの医療機関の治療費を確認して、「このクリニックだけ異常に高い……」と感じる場合は、避けたほうが無難かと思います。
先述したように、TMS治療は標準化された方法である程度は治療を進めていきます。
「治療費が高いから、きっと効果があるだろう」と考えてしまうのは、あまりおすすめしません。
また、診察する医師の経験も重要です。
TMS治療を行うためには、「目の前の患者さまにとって、TMS治療は適切か?」を、医師が判断する必要があります。
こころの臨床経験がある精神科医がいる医療機関を選ぶほうが安心でしょう。
その他には、自宅からの通いやすさ、TMS治療以外の選択肢を提示してくれるか、などがあげられます。
医療機関の選び方については、以下でさらに詳しく解説しているので、TMS治療をお考えの方はぜひ参考にしてください。
TMS治療を安心して受けるために
今回は、TMS治療を受けるための方法と、保険診療と自由診療の違いについて、詳しくご説明しました。
以下に、この記事のポイントをまとめます。
- TMS治療は保険条件が厳しく、適用されるのは希望した方の2割にも満たない
- 2021年現在、TMS治療を受ける場合は自由診療が主な方法
- TMS治療を自由診療で受ける場合は、信頼できる医療機関を選ぶ
- 治療費をあまりにも高額に設定している医療機関は、避けたほうが安心
- TMS治療の知識が正しく広まっていけば、自由診療の治療費の幅もなくなるはず
当院では、こころの臨床経験を積んだ医師が、患者さまにとっての適切な治療方法を提案しています。また、TMS治療を希望される方が安心して治療を進められるように、価格設定もできるだけ抑えています。
TMS治療について疑問をお持ちの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
【お読みいただいた方へ】
医療法人社団こころみは、東京・神奈川でクリニックを運営しています。
「家族や友達を紹介できる医療」を大切にし、各クリニックでコンセプトをもち、社会課題の解決を意識した事業展開をしています。
医療職はもちろんのこと、法人運営スタッフ(総合職)も随時募集しています。
また、当法人ではTMS診療の立ち上げ支援を行っており、参画医療機関には医療機器を協賛価格でご紹介が可能です。
ご興味ある医療者の見学を随時受け付けておりますので、気軽にお声かけください。
取材や記事転載のご依頼は、最下部にあります問い合わせフォームよりお願いします。
執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:こころみ医学 投稿日:2021年5月20日
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