うつ病の再発予防でのTMS治療の可能性
うつ病は一度かかってしまうと、再発率の高い病気であることがわかっています。
うつ病を生涯で発症する確率は6~7%程度と考えられていて、実に多くの方が経験される病気です。
治療で良くなった後に、どのようにすれば再発を予防することができるのでしょうか?
ここではうつ病の再発予防について詳しくみていき、新しい磁気によるTMS治療の再発予防における可能性についてお伝えしていきます。
うつ病は再発率の高い病気
うつ病は病気として、多くの方に知られるようになりました。
その病気の本質は、「病的なエネルギーの低下」にあります。
診断基準を満たすようなうつ症状を認めた場合にうつ病と診断されますが、生涯にうつ病と診断される確率は6.5~7.5%(DSMⅣおよびICD10)と報告されています。
また再発率が高い病気で、一度回復した方の少なくとも50%は再発するともいわれていて、一度再発された方はさらに再発率が高まります。
5年以内に再発することが多く、再発を経験した方は80%以上が再発を繰り返し、平均して5~9回のエピソードを経験すると報告されています。
ですから再発予防は非常に重要で、特に再発した患者さんでは、再発予防治療を十分に行うことが非常に大切です。
寛解と回復、再燃と再発
うつ病の治療では、まずは「エネルギーの回復」を目指していきます。
状態がある程度良くなると、「部分寛解」や「寛解」といった表現をし、そして元の状態に戻ることを「回復」と表現します。
- 部分寛解(partial remission):病的といかないまでも症状が残っている状態
- 完全寛解(full remission):症状を特に感じていない状態
- 回復(recovery):少なくとも8週間の完全寛解が続いた状態
以上のように定義されています。
後述しますが、お薬のことを考えると回復と表現するには6か月ほど待った方が良いです。
そして再び調子が悪くなることを、2つの表現で分けていきます。
- 再燃(relapse):寛解の間に再度悪化すること
- 再発(recurrence):新しいエピソードとしてうつ病を発症すること
お薬によるうつ病の再発予防
うつ病はこのように、再発率の高い病気になります。
ですから急性期治療が終わったのちにも、再燃・再発予防のために治療継続が重要になります。
急性期治療は一般的に、薬物療法を行っていきます。
お薬による治療法のメリットは、効果が認められたお薬を使い続けることが再発予防につながることが挙げられます。
各国のガイドラインでは、以下のことが推奨されています。
- 寛解から4~9か月以上の維持治療
- 反復の場合は回復後も2年以上の維持治療
このようにうつ病の維持治療では、中長期的にお薬を継続していくことが大切といわれています。
【アメリカとヨーロッパの大うつ病治療ガイドライン】
再発予防での抗うつ剤のエビデンス
お薬による再発予防効果は、明らかに示されています。
どのような抗うつ剤であっても、再発率を低下させる効果が20%程度認められており、NNTは6(6人が抗うつ剤によって再発予防できている)と報告されています。抗うつ剤を継続していると1年後も80%が再発しませんが、中止してしまうと60%に減少してしまいます。
【大うつ病性障害での抗うつ剤治療寛解後の中止:システマティックレビューとメタアナリシス】
再発予防が必要なうつ病の特徴
このように、うつ病を繰り返してしまったら再発予防をじっくりと行う必要があることは、数字から理解いただけるかと思います。
ですから日本のガイドラインでも、反復している場合は2年以上の維持治療が推奨されています。
それでは初発の場合、どのような方に再発予防が必要でしょうか?
現在のところ分かっている再発リスクとしては、以下の点が挙げられています。
- 若くしての発症
- 重症度の高さ
- 合併症の多さ
- 家族歴あり
- 否定的な認知
- 神経症傾向
- 社会的支援の乏しさ
- ストレスの多いライフイベント
これらがリスクファクターといわれています。
【うつ病の再発リスク】
ですから初発であっても、このような特徴が認められるうつ病の方に対しては、再発予防治療については慎重に行っていく必要があります。
お薬の治療であれば、通常は半年を目安に少しずつ減薬を開始していくことが多いですが、もう少しじっくりと維持治療を行って減薬を行っていきます。
双極性障害への診断見直しも
反復例の場合は、双極性障害への診断見直しが必要となる場合があります。
双極性障害は、「脳の機能的な異常からくる気分の波」が認められる病気で、躁状態は目立たずにうつ状態で苦しまれている方が多いです。
非常に診断の難しい病気で、「bipolarity(双極性)」の有無は経過の中で少しずつ見えてきます。
気分の波がある病気なので「うつ状態の再発」は当然認められますので、再発を繰り返す場合は診断を考え直すことも必要です。
双極性障害であれば治療の戦略が大きくかわり、お薬も抗うつ剤から気分安定薬が主体となります。
しかしながら「躁・軽躁エピソード」が明らかでないのに双極性障害と診断されることで、過剰診断となってしまうリスクもはらんでいます。
むしろその弊害も大きくなっており、双極性が明らかでなければ、うつ病としてしっかりと治療していくことも大切になります。
心理療法による再発予防
お薬以外での再発予防法をみていきましょう。
- 規則正しい生活リズム
- 運動習慣
などが再発予防にプラスに働くことは、感覚的にも経験的にも間違いがないのですが、これらは立証することが困難です。
再発予防にエビデンスがある心理療法としては、以下の3つがあげられます。
- 認知行動療法
- 対人関係療法
- マインドフルネス(認知療法)
【非薬理学的介入は、うつ病から回復した成人の再発を防げますか?:RCTのシステマティックレビューとメタアナリシス】
認知行動療法
同じ出来事があっても、人によってとらえ方(認知)が異なり、それによって生じる思考(自動思考)も感情も異なります。そしてそれが気分や行動に影響を及ぼします。
認知行動療法は、この気分や行動に影響を及ぼしている極端な考え(認知の歪み)を特定して、それを現実的で柔軟なとらえ方(適応的認知)に修正していく治療法です。
対人関係療法
社会生活でのストレスは対人関係に起因することが多く、うつ病の発症に大きく関係します。
対人関係の在り方は今後も続くことで、その関係を整理していくことは再発予防につながります。
対人関係療法は、重要な他者との関係を軸にして、対人関係の問題にフォーカスをあてて症状との関係を整理して、その対処法を見つけていく治療法になります。
マインドフルネス
現代人は、「今」に向き合うことがとても苦手です。
休日であっても、仕事を引きづって心から休めない経験をされた方は少なくないはず。
マインドフルネスは、「今ここにある自分」に注意を向けることで、現実をありのままにとらえるようにできる認知を身につけていく治療法になります。
再発予防が期待できるTMS治療
うつ病の新しい治療法として、rTMS治療(反復経頭蓋磁気刺激法)があります。
海外では2008年より、日本でも2019年に正式認可され、少しずつ治療法として普及しています。
このTMS治療の大きなメリットが、
- 再発率の低さ
になります。
従来の薬物療法よりも再発率が低いことが分かっており、また抗うつ剤と異なるメカニズムでの治療になるため、併用することでさらなる効果が期待できることが分かっています。
TMS治療の再発予防のエビデンス
論文について詳しくは、【クラスター化反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)によるうつ病の再発・再燃予防:ランダム化比較試験】をご覧ください。
こちらの論文によれば、お薬よりもTMS治療、さらには併用治療が再発予防率を低下させるという報告がされており、抗うつ剤のみでは44.4%の再発率であったのがTMS治療と併用することで、15.9%まで低下しました。
こちらの論文での維持TMSの刺激方法ですが、3~5日にまとめてしまう方法をとっていて、これによって治療脱落を減らす狙いがあります。
【難治性うつ病患者を対象としたクラスター化メンテナンスrTMSの非盲検試験】
しかしながらメンテナンスTMS治療の研究はまだ少なく、どのような治療法が最適化はわかっていません。
私たちは、1~2週間に1回のペースでTMS治療を行っていくか、不調を感じたら1週間くらい集中してブースト治療することが多いです。
治療抵抗性うつ病では、メンテナンスTMSによってうつ症状の有意な改善が、初月と4か月後で確認されています。
【治療抵抗性うつ病でのメンテナンスrTMSのランダム化比較試験】
TMS治療との併用薬はどれがよい?
それではどのようなお薬が、TMS治療との併用によいのでしょうか?
脳に電気刺激を与える治療法として、電気けいれん療法(ECT)を参考にできるかもしれません。
ECTの再発予防目的で良く知られているのが、リチウム(気分安定薬)になります。
治療中にはマイナスの作用もあるのでリチウムは中止しますが、治療終了後に必要な方に服用いただくことで、再発予防につながることが報告されています。
ECT治療前から抗うつ剤を併用することで、急性期の治療効果を高めることが報告されており、古い抗うつ剤であるノリトレンでの有効性が報告されています。
【ECTのアウトカムに対する併用薬物療法の効果:短期間での有効性と副作用】
その一方で、再発予防としてはECTの後から始めても変わりはなく、またノリトレンでなくてイフェクサーでも有効性は変わらないことが報告されています。
【ECT後の再発予防における薬理学的戦略】
結論として、
- リチウムが適切な方では使っていく
- 抗うつ剤は新しいタイプでも問題なし
と考えることができます。
TMS治療でも抗うつ剤との併用が治療効果を高めることが報告されているため、少なくとも治療効果を期待していくために、薬物療法とTMS治療を併用することは望ましいと考えられます。
【治療抵抗性うつ病に対する片側および両側rTMS:20年にわたるランダム化比較試験のメタアナリシス】
当院のTMS治療
TMS治療は、再発予防も見据えた場合に有効な治療選択肢となります。
お薬による治療よりも再発率が低下することがわかってきており、併用することでさらに治療効果を高めます。
うつ症状を繰り返している方にとっては、TMS治療は有効な治療選択肢といえます。
rTMSによる治療では、大きく2つの方法が取られます。
- 左背外側前頭前野への高頻度刺激
- 右背外側前頭前野への低頻度刺激
まずは左側の背外側前頭前野に高頻度の磁気刺激を与える方法を検討していきます。
治療エビデンスが高いこともあげられますが、治療時間が短いために治療費を抑えることが可能です。
ですが不安や焦燥感などが強い場合は、右低頻度刺激も検討していきます。
また双極性障害などが疑われる場合は、右低頻度刺激の方が治療効果と安全性の両面から適切です。
当院でのTMS治療費
治療費も含めて考えますと、まずは左高頻度刺激を検討していくことが多いです。
治療経過を見ながら、刺激方法を変更していく場合もあります。
当院の治療費については、機械の使用時間をもとに設定しております。
- 左高頻度刺激:10分枠 6,930円(税込)※継続 5,280円~
- 右低頻度刺激:20分枠 13,200円(税込)※継続 9,900円~
- 右低頻度刺激:30分枠 15,840円(税込)※継続 12,320円~
治療費について詳しくは、TMS治療費のページをご覧ください。
TMS治療をご検討の方へ
当院では、薬に頼らないTMS治療を行うことができます。
経験豊富な精神科医がお話を伺い、治療選択肢としてTMS治療が適切かどうかをご説明させていただきます。
再発予防を意識した場合に、TMS治療は有効な治療選択肢となります。
病状から総合的に考えて、TMS治療だけでなくお薬、心理療法な度総合的に考えていき、最適な方法を検討していくことが大切です。
TMS治療に興味頂けた方は、ぜひお気軽にご相談ください。
【お読みいただいた方へ】
医療法人社団こころみは、東京・神奈川でクリニックを運営しています。
「家族や友達を紹介できる医療」を大切にし、各クリニックでコンセプトをもち、社会課題の解決を意識した事業展開をしています。
医療職はもちろんのこと、法人運営スタッフ(総合職)も随時募集しています。
また、当法人ではTMS診療の立ち上げ支援を行っており、参画医療機関には医療機器を協賛価格でご紹介が可能です。
ご興味ある医療者の見学を随時受け付けておりますので、気軽にお声かけください。
取材や記事転載のご依頼は、最下部にあります問い合わせフォームよりお願いします。
執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:こころみ医学 投稿日:2021年7月25日
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