前頭前野および島皮質の深部反復経頭蓋磁気刺激による禁煙:前向きランダム化比較試験
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目次
ニコチン依存症には低頻度より高頻度刺激
こちらの研究では、ニコチン依存症に対してどのような刺激方法が適切かどうかが調べられました。
dTMSという治療方法を用いて、高頻度刺激、低頻度刺激、偽刺激の3つでランダムに振り分けて比較したところ、高頻度刺激で有意に禁煙率が増加し、低頻度刺激では効果が示されませんでした。
また治療にあたっては。喫煙の合図といった喫煙につながるような刺激を加えて暴露し、そのあとにTMS治療を行っていくことで高い治療効果が認められました。
この研究をベースとして、dTMSによる高頻度刺激がFDA認可を受けるきっかけとなりました。
FDAに認可されたニコチン依存症治療に対するdTMSでは、喫煙につながる刺激暴露後に、高頻度刺激を行っていきます。
論文のご紹介
英語原文は、こちら(Pub Med)をご覧ください。以下、日本語に翻訳して引用させていただきます。
背景
喫煙は、先進国において主要な予防可能の死因である。
我々が動物モデルとヒトを用いて行った先行研究では、外側前頭前野(PFC)の電磁刺激によるキュー誘発渇望ネットワークの反復活性化が薬物渇望と消費の持続的な減少を引き起こす可能性が示唆されている。
我々は、PFCと島皮質の深部経頭蓋磁気刺激(TMS)によるこれらの回路の破壊が禁煙を誘発する可能性があると仮説を立てた。
方法
少なくとも20本/日のタバコを吸う成人(N=115)で、以前の治療に失敗した者を一般集団から募集した。
参加者は、喫煙の合図を提示した後、または提示しない場合に、毎日13回の高頻度刺激、低頻度刺激または偽刺激を受けるように無作為に割り付けられた。
深部TMSは、両側の外側PFCと島皮質を標的としたHコイルを用いて実施された。
治療中のタバコ消費量は、尿サンプル中のコチニン濃度を測定し、一次アウトカム変数として参加者の自己申告を記録することで評価した。
依存性と渇望は標準化された質問票を用いて評価された。
結果
高頻度の深部TMS治療は、タバコ消費量とニコチン依存を有意に減少させたが、低頻度の深部TMS治療では有意に減少しなかった。
この治療と喫煙の合図への暴露を組み合わせることで、タバコ消費量の減少が促進され、治療終了時の禁煙率は44%、治療後6ヶ月では推定33%となった。
結論
さらにこの研究は、ニコチン中毒における外側PFCおよび島皮質の重要性を示唆し、有望な治療戦略として喫煙の合図の提示後にこれらの領域に対する深部高頻度TMSを使用することを示唆している。
図1 自己報告されたタバコ消費量に対する治療効果
治療開始前(スクリーニング日)とTMSセッション最終日の参加者の主観的な自己申告によるタバコの本数を全グループで示している:0+(n=15)、0-(n=16)、1+(n=7)、1-(n=7)、10+(n=16)、10-(n=16)。
上のパネルは、各グループのスクリーニング日と最終治療日に吸ったタバコ本数の平均±SEMを示す。
下のパネルは、各治療セッションで吸ったタバコ本数の日変化(ベースラインに対する割合)を示しています。
この分析では、治療(F2,70=5.58、p=0.0057)とセッション(F11,781=3.37、p=0.0001)に対する有意な効果、並びに有意な治療とセッションの相互作用(F22,781=2.03、p=0.0036)を明らかにした。
合図については、有意な効果または相互作用は認められなかった。
ペアワイズ比較では、セッション6以降、10Hz刺激の効果は偽刺激よりも有意に大きいことが明らかになった(セッション6および7ではp<0.05、セッション8~10ではp<0.01、セッション11~13ではp<0.0001)
一方、10Hz刺激の効果は1Hz刺激よりも大きいことがセッション10以降に明らかになった(セッション10ではp<0.05、セッション11~13ではp<0.01)。
いずれのセッションにおいても、偽刺激群と1Hz群の間に有意差は認められなかった。TMS;経頭蓋磁気刺激。
図4 ニコチン依存症に対する治療効果
治療前後のFTND質問票スコアを群平均FTNDスコア±SEMとして示す。0+(n=15)、0-(n=16)、1+(n=7)、1-(n=7)、10+(n=16)、10-(n=16)。
FTND;ニコチン依存性のためのFagerströmテスト。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:こころみ医学 投稿日:2021年2月26日
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