本当に大丈夫?薬に頼らないうつ病治療
みなさんはお薬に対して、どのようなイメージがありますでしょうか?
「できれば飲みたくない」と思われている方は多く、なかには「絶対に飲みたくない」という方もいらっしゃるかと思います。
現代の心の治療は、お薬の助けを借りて行っていくことが中心となっています。
「薬に頼りたくない」と考えている方にとっては、抵抗が強いかもしれません。
ですが私たちは多くの患者さんをみていて、「薬に頼るべき場合」と「薬に頼らないでも良い場合」があることを経験しています。
ここでは薬に頼らないうつ病治療についてご紹介させていただき、新たな治療法として2019年より日本でも適応が認められているTMS治療について詳しくお伝えしていきます。
本当に薬に頼らないために
薬に頼らずに治療ができれば、それに越したことはありません。
ですが、「薬に頼らない」ことにとらわれて、本質を見失ってしまうこともあります。
「早く良くして元の生活を回復する」ことが目的であって、「薬に頼らない」ことが目的ではありません。
当たり前のことではありますが、「薬に頼らない」ことに固執してしまうあまりに、状態をこじらせてしまうことも少なくありません。
「薬に頼らない」というフレーズは、ネガティブな側面で語られることが多い言葉になります。
本当に薬に頼らないためには、薬に対しても正しく理解していく必要があります。
薬に頼るべき状態もあることを理解
病気や状態のなかには、お薬に頼らなければ治療が困難な場合もあります。
脳に何らかの機能の異常が認められる場合は、そのバランスを調整していく必要があります。
日本では昔から、
- 内因性うつ病
- 心因性うつ病
と、原因からわけていくことが多いです。
内因性うつ病は、ストレスの蓄積から脳に何らかの機能的な異常が認められ、それによりうつ症状が認められています。
このような時は脳のバランスを整える必要があり、薬に頼るべきケースになります。
一方で心因性うつ病では、ストレスに反応してうつ症状が認められており、症状が軽度であれば薬に頼らずに治療を行っていくこともあります。
薬のかわりにTMS治療も
このように内因性うつ病では、脳の機能バランスを整えるために薬に頼るべきとお伝えしました。
この場合に薬のかわりになる新しい治療選択肢として、TMS治療(経頭蓋磁気刺激療法)があります。
TMS治療は磁気を介して頭蓋骨の影響を避け、ピンポイントで脳を電気刺激し、神経の働きを調整する治療法になります。
2019年に日本でも適応が認められ、新たなうつ病治療として少しずつ広まっています。
薬とは異なるメカニズムになりますが、脳の機能バランスを整えるという点では、同等の治療効果が期待できます。
さらにお薬が効かなかった方でも、TMS治療はまったく別のメカニズムになりますので、関係なく効果が期待できます。
薬も有効な治療選択肢のひとつ
心因性うつ病であれば、症状がそこまで重くなければ薬に頼らない治療も可能ではあります。
ですが多くの場合、「薬に頼らない」ではなく、「薬だけに頼らない」とした方が、早く改善が期待できます。
薬の助けを借りることで症状がやわらぐと、それだけでも柔軟に物事を考えやすくなります。
心理療法なども進めやすくなり、結果として早く良くなることにつながります。
お薬に抵抗が強く、服薬は一切せずに治療される方もいらっしゃいます。
ですが薬も有効な治療選択肢になりますので、「なかなか良くならない」時には薬物療法も一つの選択肢として再考してください。
薬に頼らないうつ病治療法
それでは、薬に頼らない治療法について考えていきましょう。
海外ではうつ病の診断は、診断基準に満たすような症状の有無から診断していきます。
このような方法を操作的診断法といいますが、原因よりも「エネルギーの低下」という状態に基づいて評価して、治療も画一的に行う傾向にあります。
「薬に頼らない治療」という観点では、原因を大切にしたほうが考えやすいため、ここでは原因別にご紹介していきます。
内因性の場合
まずは脳の機能的なバランスが崩れてしまっている内因性の場合、どのような方法があるかをご紹介していきます。
内因性を示唆する症状としては、思考抑制(思うように頭が働かない)や過度な自責感(なんでも自分が悪く思える)などがあります。
このような場合は、
- 薬物療法
- rTMS療法
- 電気けいれん療法(ECT)
こちらの3つが治療法として考えられます。
お薬に頼らないという点では後者の2つになりますが、電気けいれん療法は安全性は高いものの、イメージの怖さや麻酔の負担などがあります。
このため薬に頼らない治療法としては、rTMS療法があります。
心因性の場合
ストレスに対する反応でうつ症状がみられている場合は、薬に頼らない治療法の選択肢が広がります。
- 休職(休養)
- 心理療法
- 運動療法
基本的には、以上のような治療法を行っていきます。
しかしながら薬に頼らずに治療ができるのは、症状が比較的に軽度の場合になります。
うつ病はエネルギーが低下してしまっている状態ですから、思考作業や運動によってさらに消耗してしまうこともあります。
調子が良くないときは柔軟に考えることも難しくなるので、心理療法もうまく進まない場合があります。
あくまで疲れすぎない程度で、心理療法も負担になり過ぎない程度で進めていくことが大切です。
その他の治療法
その他にも、薬に頼らないうつ病治療法としては以下のようなものがあります。
- 栄養療法
- サプリメント
- 漢方治療
- 光療法
- 音楽療法
詳しく知りたい方へ
栄養療法やサプリメントについては、治療としては慎重に検討する必要があります。
治療という観点では、基本的には効果があるサプリメントなどがあれば、治療薬として研究が進められているはずです。
確かに鉄や亜鉛などの欠乏がうつ症状につながることもあり、その他の症状から疑って調べて、欠乏状態であれば補充する必要があります。
こちらは保険診療でも、採血で確認してお薬で治療することができるので、まずは主治医に相談いただいたほうが良いです。
その他に漢方や光療法、音楽療法などについては、目立ったデメリットは少ないため、通常の診療とうまく組み合わせていけば、有用な場合があります。
薬に頼らないために必要なこと
「病院に行けば薬を飲まされる」というイメージがあるかもしれませんが、決してそういった医療機関ばかりではありません。
ご本人の意思も大切にしながら、、専門家として患者さんの状態を把握し、それに適した治療選択肢をご提案していくことが多いです。
薬に頼らない治療を適切に行っていくためには、薬の治療を良く知っている必要があります。
確かに薬には、負の側面もあります。ですが適切に使っていけば、とても有用な治療選択肢になります。
TMS治療を行っていくにしても、TMSは治療選択肢のひとつにすぎず、病気の診断や治療判断は通常の診療経験が大切になります。
残念ながらTMSの世界でも、通常の薬の治療経験が乏しい、もしくは我流で行っている医師も少なくありません。
またサプリメントなどの世界でも、根拠のはっきりしないにもかかわらず効用ばかり謳われていることもあります。
ぜひTMS治療について正しくご理解いただき、有用な治療選択肢となっていくことを願っています。
どのような治療にもプラセボ効果があり、効果が強調されていることがあります。
TMS治療は副作用も少ないのでリスクが少なく、そうしたビジネスが展開されているのが現状です。
TMS治療をご検討の方へ
当院では、薬に頼らないTMS治療を行うことができます。
経験豊富な精神科医がお話を伺い、治療選択肢としてTMS治療が適切かどうかをご説明させていただきます。
TMS治療の効果が期待しづらい場合は、その理由を踏まえまして、他の選択肢についてもご提案させていただきます。
専門家の手助けが必要だと感じている方は、ぜひお気軽にご相談ください。
【お読みいただいた方へ】
医療法人社団こころみは、東京・神奈川でクリニックを運営しています。
「家族や友達を紹介できる医療」を大切にし、各クリニックでコンセプトをもち、社会課題の解決を意識した事業展開をしています。
医療職はもちろんのこと、法人運営スタッフ(総合職)も随時募集しています。
また、当法人ではTMS診療の立ち上げ支援を行っており、参画医療機関には医療機器を協賛価格でご紹介が可能です。
ご興味ある医療者の見学を随時受け付けておりますので、気軽にお声かけください。
取材や記事転載のご依頼は、最下部にあります問い合わせフォームよりお願いします。
執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:こころみ医学 投稿日:2021年7月8日
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