薬剤抵抗性強迫性障害(OCD)におけるrTMS治療の有効性と臨床反応予測因子:後ろ向き研究
こちらの論文は、
のページに引用しています。
重症度が低く、強迫症状に抵抗できる方はTMS治療が効果的
こちらの論文は、強迫性障害でのターゲットによる違いとTMSが効果的な患者要因を調べた論文になります。
まず前提としている患者さんは、強迫性障害にうつ状態を合併してしまっている方になります。
その場合に、通常のうつ病でターゲットとなるDLPFC(両側刺激)と、強迫性障害での効果が期待できるターゲットであるSMA刺激を比較しています。
2つのターゲットでの効果の違いを比較しています。
これによれば、どちらも有意差がなく半数程度の改善が認められていますので、少なくともうつ状態のときにDLPFC刺激を行うことで改善は期待できるといえます。
うつ状態が改善すれば強迫症状も改善することは、お薬での治療でも同様ですので、やはりうつ状態のときはその治療をしっかりと行うことが大切です。
またこの研究では、どのような強迫性障害患者さんにTMS治療が効果的かを調べています。
これによれば、
- 重症度の低さ
- 強迫症状へ抵抗すること
この2つの要素がある患者さんでのTMS治療効果が期待できます。
こうみると、強迫症状をいかに我慢するか、行動療法としての側面がとても大切であることがわかります。
エネルギーが十分になければ行動療法も行うことができないので、TMS治療や薬物療法でうつ状態をしっかりと改善し、そののちに強迫性障害の治療目的でdTMS治療を行っていくことが良いと思われます。
サマリーのご紹介
英語原文は、こちら(Pub Med)をご覧ください。
以下、日本語に訳して引用させていただきます。
背景
強迫性障害(OCD)の治療に反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)を適用することは有望であり、2018年にアメリカ食品医薬品局(FDA)によって承認されたが、効果は患者によって異なる。
rTMSの臨床反応予測因子に関する知識は、臨床的効果を高めるのに役立つ可能性があるが、現状は利用できていない。
方法
後ろ向き研究では、2015年7月から2017年5月までにrTMS治療のために募集した薬剤耐性OCD外来患者65例を対象に、背外側前頭前野(DLPFC)または補足運動野(SMA)に対するrTMSの有効性を調査した。
一次的なOCD症状に加えて、より高い情動症状や抑うつ症状を報告した場合に、SMA rTMS(n=38)または両側DLPFC rTMS(n=27)処置のいずれかを患者は受けた。
OCD症状および抑うつ/不安状態は、ベースライン(1回目の処置前)および20回目のrTMS処置後に測定された。さらに、Yale-Brown強迫性尺度(Y-BOCS)の3因子モデルと2因子モデルに基づくデモグラフィック変数と臨床変数、および個々の項目についてバイナリロジスティック回帰分析を行い、rTMS反応の潜在的な予測因子を調査した。
結果
患者のY-BOCSおよびBeck不安/抑うつ調査表のスコアは、rTMS治療後に有意に低下した。
Y-BOCSスコアが少なくとも30%減少するという基準に基づくと、全患者の46.2%がrTMSに反応した。DLPFC群とSMA群の患者の奏効率には有意差はなかった。
rTMSの有効性の有意な人口統計学的予測因子は同定されなかった。
「強迫観念の重症度」、「抵抗性」および「妨害」の因子と、Y-BOCSの「強迫観念による妨害」および「強迫衝動に対する抵抗力」の項目は、rTMSに対する反応を有意に予測した。
結論
侵入的/干渉的な思考が少なく、「強迫観念の重症度」、「妨害」および「抵抗性」の各項目のスコアが低い患者に対しては、rTMSが優れた効果を発揮する可能性がある。
臨床的および非臨床的な反応予測因子を特定することは、薬剤耐性OCD患者においてrTMSプロトコールを個別適応化することと関連する。<.p>
偽治療を介入させていないため、rTMSの有効性の解釈は注意して行う必要がある。
Fig.2より引用
rTMSレスポンダーおよびノンレスポンダーにおけるrTMS治療前後のY-BOCS、BAIおよびBDI-IIの平均スコア(a)
SMAまたはDLPFCに対してrTMS治療を受けた参加者におけるrTMS治療前後のY-BOCS、BAIおよびBDI-IIの平均スコア(b)
全患者における反応の割合(c)およびOCD症状の減少の割合(d)を、介入プロトコルに基づいて示した。
グラフCおよびDでは、介入後のスコアのみを比較している。
注:Y-BOCS=Yale-Brown強迫性尺度; BAI=Beck不安調査表; BDI-II=Beck抑うつ調査表; *=統計的に有意; ns=非有意; すべてのエラーバーは平均の標準誤差(S.E.M.)を表す。対照的比較は、ボンフェローニ補正post hoc t検定を用いて行った。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:こころみ医学 投稿日:2021年1月28日
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