パーキンソン病とTMS治療

パーキンソン病とTMS治療について、神経内科専門医と精神科医でエビデンスに基づいて詳しくお伝えしていきます。

パーキンソン病にTMS治療は、「効果がある可能性がある」と考えられています。

エビデンスレベルBとなっていますが、適切なプロトコールは確立されておらず、効果の持続もはっきりしていません。

このためパーキンソン病にうつ病を合併している場合は、TMSは治療選択肢のひとつになります。

ここではパーキンソン病についてご紹介し、治療選択肢として薬に頼らないTMS治療の可能性をお伝えしていきたいと思います。

パーキンソン病とは?

パーキンソン病では、

  • 手足のふるえ(振戦)
  • 動作が遅い・少ない(動作緩慢・寡動)
  • 体の力をうまく抜けない(筋強剛)
  • 転びやすい(姿勢保持障害)

といった運動症状が生じる進行性の病気です。

50~65歳で発症することが多く、高齢になるほど発病率が上昇します。

日本では1,000人に1人程度の割合でみられますが、60歳以上では実に100人に1人の割合でパーキンソン病と診断され、決して珍しい病気ではありません。

人口高齢化に伴い、患者数は増加しています。難病に指定されています。

パーキンソン病の原因

中脳の黒質と呼ばれる部位にあるドパミン神経細胞が減ってしまうことで運動症状

アルファ-シヌクレインとよばれるタンパク質がドパミン神経細胞の中に溜まることが原因と考えられており、アルファ-シヌクレインが細胞の中で増えないようにすることが治療薬開発の目標になっています。

パーキンソン病は基本的に遺伝しませんが、40歳以下で発症するものは若年性パーキンソン病とよばれ、家族内にもパーキンソン病と診断されており遺伝子の異常がみつかる場合もあります。

パーキンソン病の症状の特徴

  • 振戦
  • 動作緩慢・寡動
  • 筋強剛
  • 姿勢保持障害

主な運動症状は、これらの4つになります。

振戦は椅子に座ってリラックスしている時などに起こることが多く、静止時振戦とよばれます。

動作緩慢は日常動作に時間がかかるようになることで自覚されます。

表情が乏しくなり(仮面様顔貌)瞬きが少なくなるといった症状も動作緩慢の一部です。歩き始めの一歩が出づらくなることもあります(すくみ)。

筋強剛を自覚することは少なく、他人が手足や頸を動かそうとすると抵抗を感じます。

姿勢保持障害は他の症状が出現してから数年たって出てくる症状であり、初期からみられる場合には他の病気の可能性を考える必要があります。

運動症状以外には、自律神経障害(頻尿、便秘、発汗、立ちくらみ)、においがわかりにくい(嗅覚低下)、気分の落ち込み(うつ)、夜間にうなされる、大声を出すといったものが出現することがあり、非運動症状とよばれます。

パーキンソン病の診断

以下の4項目を満たすことでパーキンソン病と診断されます。

  • 運動症状がある
  • 頭の画像検査で目立った異常がない
  • パーキンソン病と同じ症状を引き起こす薬が使われていない(薬剤性ではない)
  • パーキンソン病の治療薬で症状が改善する

発症から時間がたっていない段階では、他の病気と区別することが難しいことも少なくありません。

パーキンソン病の基本的な治療法

薬物治療が基本であり、ドパミン神経細胞の減少で不足する脳内のドパミンを補います。

ドパミン自体をのんでも脳には取り込まれず、レボドパという形でのむと消化管から吸収され、脳内に移動した後でドパミンになります。

他にも、ドパミン受容体刺激薬など多くの種類の治療薬を組み合わせて治療を行います。

最近では、のみ薬に加えて貼り薬も登場しました。

症状が進行して薬の効き目が十分でなくなった場合、脳内に電極を埋め込んで脳の深いところを刺激するという治療法もあります(深部脳刺激)。

散歩やストレッチといった運動を毎日続けることも、パーキンソン病の有効な治療の1つです。

パーキンソン病に対するrTMS治療方法と費用

rTMS治療では、うつ症状を伴うパーキンソン病に対する治療効果を期待していきます。

パーキンソン病は、基本は薬物療法での治療となります。

現在のエビデンスでは、どうしても改善がない場合のみTMS治療を考慮するべきです。

パーキンソン病では、補足運動野や一次運動野での高頻度rTMS、左DLPFCに対する高頻度rTMSでの報告が多いですが、まだ最適なターゲットは決定されていません。

うつ症状を伴っている場合にDLPFCがターゲットとすることは合理的です。

うつ症状をrTMS療法で改善することができれば、パーキンソン病の症状改善にもつながります。

パーキンソン病のTMS治療プラン

パーキンソン病のTMS治療としては、大きく2つの方法が行われます。

  1. 右背外側前頭前野への低頻度刺激
  2. 左背外側前頭前野への高頻度刺激

左高頻度刺激が基本的なプロトコールになります。

不安が強い場合は、右高頻度刺激の方が適切な場合があります。

当院でのTMS治療費

当院の治療費については、機械の使用時間をもとに設定しております。

  1. 左高頻度刺激:10分枠  6,930円(税込)※継続 5,280円~
  2. 右低頻度刺激:20分枠 13,200円(税込)※継続 9,900円~
  3. 右低頻度刺激:30分枠 15,840円(税込)※継続 12,320円~

治療費について詳しくは、TMS治療費のページをご覧ください。

パーキンソン病でのTMSのエビデンス

TMSのガイドラインの論文ご紹介

パーキンソン病の運動症状に対して、TMS治療の効果が期待できないかが研究されています。

こちらはヨーロッパの専門家がまとめたTMSガイドラインですが、両側M1または左DLPFCに対するHF-rTMSがエビデンスレベルB(有効な可能性あり)となっています。

こちらの論文については、こちらをご覧ください。

日本神経学会から出版されている『パーキンソン病診療ガイドライン2018』にもパーキンソン病へのTMS治療に関する記載があります。
【日本神経学会HP:パーキンソン病診療ガイドライン2018】

その他の論文

パーキンソン病の運動症状に対しては、両側の一次運動野への高頻度反復TMS(HF-rTMS)が有効との報告があります。

ランダム化二重盲検シャム対照比較試験(55例、刺激6セッション/6日、観察12週)であり、運動野へのHF-rTMSは運動症状を有意に改善させました。特に25Hz刺激では10Hz刺激よりも改善度が高いという結果でした。
【パーキンソン病におけるrTMSの運動能力への影響について】

特に、手の運動野に対するHF-rTMSで効果がみられたとの報告があります(以下の2報告)。

ランダム化二重盲検シャム対照比較試験(29例、刺激10セッション/2週、観察4週)であり、運動症状のうち、特に寡動と筋強剛が有意に改善しました。
【パーキンソン病の運動・気分症状に対する多焦点rTMSのランダム化試験】

ランダム化二重盲検シャム対照比較試験(44例、刺激10セッション/2週、観察4週)であり、運動症状の改善がみられました。
【高頻度rTMSでパーキンソン病のうつ病が改善:ランダム化二重盲検プラセボ対照試験】

一方、過去には足の運動野へのHF-rTMSが有効であったという報告もあります。

ランダム化二重盲検シャム対照比較試験(21例、刺激8セッション/8週、観察12週)であり、HF-rTMSが運動症状を有意に改善させました。
【パーキンソン病における足部一次運動野への高頻度rTMS】

また、補足運動野(SMA)へのHF-rTMSで運動症状が改善したという報告もあります。

ランダム化二重盲検シャム対照比較試験(99例、刺激8セッション/8週、観察4週)であり、SMAへのHF-rTMSは運動症状を有意に改善させました。
【パーキンソン病治療のための補足運動野への高頻度rTMS】

【お読みいただいた方へ】
医療法人社団こころみは、東京・神奈川でクリニックを運営しています。
「家族や友達を紹介できる医療」を大切にし、各クリニックでコンセプトをもち、社会課題の解決を意識した事業展開をしています。
医療職はもちろんのこと、法人運営スタッフ(総合職)も随時募集しています。

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また、当法人ではTMS診療の立ち上げ支援を行っており、参画医療機関には医療機器を協賛価格でご紹介が可能です。
ご興味ある医療者の見学を随時受け付けておりますので、気軽にお声かけください。

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執筆者紹介

三宅 善嗣

神経内科医・理学博士

日本神経学会神経内科専門医/日本臨床神経生理学会専門医/日本内科学会認定内科医

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執筆者紹介

大澤 亮太

医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師

日本精神神経学会

精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了

カテゴリー:こころみ医学  投稿日:2023年3月11日

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