PTSD(トラウマ)とTMS治療
PTSDにTMS治療は、「おそらく効果があるだろう」と考えられています。
海外では戦争後のPTSDに対するTMS治療などが研究されていて、エビデンスが比較的多くそろっており、レベルBのエビデンスとなっています。
しかしながら適切なプロトコールは確立されておらず、効果の持続もはっきりしていません。
このためPTSDにうつ病を合併している場合は、TMSは治療選択肢のひとつになります。
ここではPTSDについてご紹介し、治療選択肢として薬に頼らないTMS治療の可能性をお伝えしていきたいと思います。
PTSDとは?
PTSD(心的外傷後ストレス障害)とは、誰もが打ちのめされるような悲惨な出来事を経験することでストレスが外傷となってしまう病気になります。
いわゆる「トラウマ」と呼ばれていますが、日常での苦い体験という程度ではなく、だれもが処理できないような凄惨な出来事によって引き起こされます。
PTSDの症状
症状としては大きく5つに分けられ、
- フラッシュバックや悪夢などの再体験症状
- プラスの感情が喪失してしまう陰性気分
- 離人感や嫌悪記憶がなくなる解離症状
- アルコール依存なども含めたトラウマからの回避症状
- 浅い睡眠や知覚過敏などの覚醒症状
などが認められます。
PTSDの脳の変化
PTSDでは「脳の機能的異常」が生じており、感情を処理する腹内側前頭前野(vmPFC)の活動が低下し、恐怖などを感じる扁桃体がコントロールを失い過活動になっています。
そして記憶に関係する海馬が委縮し、現在と過去の状況の違いを区別することを困難にしてフラッシュバックなどの再体験症状につながるといわれています。
PTSDでは生活への支障も大きく、うつ病を合併することも多いです。PTSDにうつ症状がみられている場合は、TMS治療は治療選択肢の一つとなります。
PTSDについて詳しくは、ストレス障害のページ(こころみ医学)をご覧ください。
PTSDに対するrTMS治療方法と費用
rTMS治療では、うつ症状を伴うPTSDに対する治療効果を期待していきます。
PTSDの治療は、外傷的な体験を少しずつ処理していく必要があります。このため、TMS治療が本質的とは言えません。
うつ症状を中心にPTSD症状の改善につなげ、心理的な治療を行いやすくする目的では、TMS治療は治療選択肢といえます。
またPTSDの治療は長期にわたることが多いことを考えれば、お薬が使えない理由がある場合を除いては、まずは薬物療法を検討すべきでしょう。
お薬の効果が限定的である場合は、作用メカニズムの異なるTMS治療も並行して行うことは、選択肢のひとつとなります。
PTSDのTMS治療プラン
PTSDのTMS治療としては、大きく2つの方法が行われます。
- 右背外側前頭前野への低頻度刺激
- 左背外側前頭前野への高頻度刺激
右低頻度刺激によってPTSD症状が改善したとされる報告が多く、基本的な治療プロトコールになります。
左高頻度刺激については、うつ症状が目立つ場合は効果を期待していきます。
PTSDではうつ症状の治療とあわせて行い、病状をみながら総合的に判断して治療をすすめていきます。その経過によっては、刺激方法を変更・工夫していきます。
当院でのTMS治療費
当院の治療費については、機械の使用時間をもとに設定しております。
- 左高頻度刺激:10分枠 4,950円(税込)※継続3,300円~
- 右低頻度刺激:20分枠 8,250円(税込)※継続6,600円~
- 右低頻度刺激:30分枠 13,200円(税込)※継続9,900円~
治療費について詳しくは、TMS治療費のページをご覧ください。
PTSDでのTMSのエビデンス
こちらの論文によれば、右DLPFCの低頻度刺激と高頻度刺激での効果が示されています。
しかしながら各プロトコールでの有効性の違いを決定するほどの十分な研究報告がありません。ですが適切なプロトコールをみつかれば、TMS治療がPTSDに有効である可能性があります。
論文について詳しくは、PTSDのrTMS治療:【PTSDの治療のためのrTMS:統計的レビューとネットワークメタ解析】をご覧ください。
その他の論文
2020年に行われたPTSDのRCTでは、右DLPFC低頻度刺激を行うことでPTSD症状の有意な改善が報告されています。
その一方で右高頻度刺激はPTSDでは症状の改善には有意差がなく、うつ症状の改善が認められました。
【民間でのPTSDの右DLPFCに対する1Hzと10HzのrTMS治療のランダム化比較試験】
それではその治療効果はどれくらい期待できるかをみてみましょう。
左DLPFC高頻度刺激(5Hz)での前向きの非盲検研究ですが、およそ1/3でPTSD(12/33人)とうつ症状(11/33人)の有意な臨床改善を認めたと報告されています。
少なく感じるかもしれませんが、PTSDが治療に反応しにくく症状が重いことを考えると、良好な結果ともいます。
【PTSDと大うつ病性障害に対するrTMSの臨床反応のネットワークメカニズム】
その一方で追跡調査を行った研究をまとめると、PTSD症状の改善が認められても、その効果は2~3か月で失われてしまったと報告されており、効果の持続は限定的と思われます。
【不安とトラウマ関連疾患に対するTMS:システマティックレビューとメタアナリシス】
またPTSDでは交感神経や副交感神経といった自律神経の異常が認められることがありますが、自律神経機能障害が少ないほうがiTBSの治療効果が期待できることが報告されています。
【心的外傷後ストレス障害におけるiTBS刺激反応の予測因子としての心拍変動特性】
PTSDでの薬物療法
PTSDの治療としては、抗うつ剤を主とした薬物治療が基本となります。
SSRIをはじめとした抗うつ剤を使っていくことで、過敏さを和らげていくことができます。
正式に適応が認められているのは、
- パキシル(一般名:パロキセチン)
- ジェイゾロフト(一般名:セルトラリン)
の2剤になります。
実際には患者さんごとに効果的な抗うつ剤をみつけ、抗精神病薬や気分安定薬などを併用することがあります。
治療の考え方
PTSDの治療では、お薬による治療だけでは改善は限定的です。本質的には、トラウマとなっている体験の処理を進めていく必要(デブリーフィング)があります。
そのためには、トラウマと向き合えるだけのエネルギーが必要となり、心身の状態が安定していることが大切となります。
このため健康な「今」を大切にしながらも、落ち着いてきたら心的外傷に焦点を当てた認知行動療法やEMDRといった心理療法を、経験豊富な臨床心理士とカウンセリングをしていくことも必要です。
PTSDの治療において、お薬の反応性は良いとは言えません。ある程度の改善は認められても、症状が残ってしまうことは少なくありません。
このためTMS治療は、お薬の治療をサポートする形では有用な手段になりえます。
とくにうつ症状が目立つ場合には、TMS治療は治療手段のひとつとなります。
TMS治療をご検討の方へ
PTSDはお薬による治療を基本として、少しずつ心理治療を行っていくのが一般的です。
しかしながらうつ症状を合併していたり、お薬を使えない事情がある場合は、TMSも治療選択肢となります。
このように適切なTMS治療を行っていくためには、TMS治療の知見はもちろんのこと、前提となる心の治療経験が非常に大切です。
当院には12名の精神科医が在籍していますが、両方に精通した医師4名のみ(2021年9月現在)が担当させていただきます。
TMSは治療選択肢のひとつとして、患者さんの立場に立ってご相談させていただきます。
TMS治療にご興味お持ちの方は、東京横浜TMSクリニックにご相談ください。
執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了