TMS研究における嗜好品使用の影響について
こちらの論文は、
のページに引用しています。
嗜好品はTMS治療に影響あるかも?
こちらの論文は、TMS刺激に与える嗜好品(アルコール・ニコチン・カフェイン・大麻など)の影響を調べた報告になります。
研究にあたっては、このような嗜好品が何らかの影響を与えるのを嫌って、服用しない条件のもとで行われます。このため影響を調べた研究は少ないのが実情です。
その中で、代表的な嗜好品(レクリエーション物質)の接種の影響を考察しています。
アルコールについては、急性の影響と慢性の影響を分けて検討しています。
急性の影響としては、MEPに影響を与えずに、皮質脊髄路の興奮性に大きな影響を与えないと考えられています。
しかしながらMEPを減少させている報告もあり、どちらかというと興奮しにくくなる方向にいくことが推察されます。
しかしながら女性については、短潜時半球間抑制(SIHI)を減少させる報告があり、男性よりもアルコールの影響を受けやすいことがTMS研究でも示されています。
慢性的なアルコール摂取の影響としては、飲酒状態や離脱状態など、TMSを行ったときの生理学的な状態に大きく依存します。
またアルコール依存症になりやすい人は、興奮/抑制の不均衡さを遺伝的に受け継いでいる可能性もあり、家族歴なども関係してくるのではという指摘もあります。
いずれにしても慢性的なアルコール摂取は、TMS治療に大きな影響を与えると考えられています。
大麻についても記載されていますが、慢性的な使用は皮質脊髄路の興奮性に影響を与えないといわれていますが、急性使用は使用歴でも差があると考えられ、症例が少なく影響が不明です。
ニコチンについては、急性摂取は皮質脊髄路の興奮性に影響を与えることはありません。
しかしながら慢性摂取については、一貫した結果がでていませんが、非喫煙者に比べて興奮性などに影響を及ぼすことが想定されています。
カフェインについては、皮質の興奮性については大きな影響を及ぼさないと考えられています。
しかしながらMEPを高める方向の報告もあり、どちらかといえば皮質興奮性を高めることが想定はされます。
このように、日常の嗜好品がTMS治療にどのような影響を及ぼすかはわかっていない部分が大きいですが、日常的な使用であれば、そこまでTMS治療に大きな影響を及ぼさないことが考えられます。
論文のご紹介
英語原文は、こちら(Pub Med)をご覧ください。以下、日本語に翻訳して引用させていただきます。
背景
大脳皮質および皮質脊髄機能の研究には、経頭蓋磁気刺激(TMS)が広く用いられている。
しかし、TMSに対する反応は、個人内および個人間で大きなばらつきがある。
嗜好品の一時的および慢性的な暴露は、感覚運動系の興奮性を変化させ、TMSの結果のばらつきの原因となっている可能性がある。
嗜好品の使用が増加していることは、TMS 研究を実施する上で大きな課題となっているが、これらの物質が感覚運動機能に及ぼす影響については明確になっていない。
方法
アルコール、ニコチン、カフェインおよび大麻が、皮質、皮質内および半球間の興奮性のTMS測定結果に及ぼす影響を調査した文献をレビューした。
結果
嗜好品の一時的および慢性的使用は、TMSによる興奮性の測定に影響を与える。
この分野では多くの研究が行われているが、これらの物質がTMSの結果に与える影響をよりよく理解するために、今後の研究で取り組むべき知識のギャップを明らかにした。
結論
今回のレビューでは、TMS研究において、被験者の嗜好品使用歴を考慮し、検査前の一時的な嗜好品の使用をコントロールする必要性が明らかとなった。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:こころみ医学 投稿日:2021年6月27日
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