「TMS治療」と「電気けいれん療法」の違いとは?各治療法の特徴も解説
磁気を用いて脳をピンポイントで電気刺激する「TMS治療」と、頭部に直接電気刺激することにより一時的に脳にけいれんを誘発する「電気けいれん療法」。どちらも、うつ病への有効性が認められている治療法です。
それぞれの治療法によって違いはあるのですが、どちらも脳に対してアプローチするため「2つの治療法の違いがわからない」と感じている方も多いです。
ここでは、TMS治療と電気けいれん療法の違いと、それぞれの治療法の特徴について、詳しく解説します。
目次
「TMS治療」とは?
TMS治療とは、磁気によって頭蓋骨をこえて、脳内をピンポイントに刺激する治療法です。
正確には「反復経頭蓋磁気刺激療法」、もしくは「repetitive transcranial magnetic stimulation (rTMS)」と呼びます。
「rTMS治療」「TMS治療」と微妙に異なる名前で表されることもありますが、同じ治療法をさしています。
TMS治療のメリット
TMS治療のメリットとしては、以下の3つのポイントが挙げられます。
- 治療の副作用が少ない
- 治療期間を短くできる
- 再発率が低い
治療の副作用が少ない
TMS治療では、磁気を利用して脳の一部分をピンポイントで刺激します。
そのため、その他の部分に影響が少なく、治療の副作用が起きにくいことが分かっています。
薬物治療の副作用によりお薬を飲み続けられない方が、うつ病の治療の選択肢としてTMS治療に移行することも増えてきました。
治療期間を短くできる
TMS治療は、開始前にご自身のライフスタイルに合わせて治療計画を立てることができます。
一回の治療時間は3~30分と短く、仕事や家事の合間に治療を行い、治療後すぐに生活に戻ることができます。
また、短期集中治療では、最短2週間で十分な治療効果が期待できます。
再発率が低い
TMS治療の1年後の再発率は、1~3割と言われています。
これは、薬物療法の再発率と比べると非常に低い数字です。
再発のリスクがある方には、安定した状態を保つ目的でTMS治療を行うことも可能です。
TMS治療のデメリット
TMS治療のデメリットとしては、以下の2つのポイントが挙げられます。
- 保険適用が難しい
- 医療機関によって治療費と倫理観に差がある
保険適用が難しい
2019年6月に日本でも保険適用が認められたTMS治療ですが、適応条件がとても厳しく、保険診療の対象になる方は全体の2割以下です。
2021年10月現在でTMS治療を受ける方は、ほとんどが自由診療になるでしょう。
将来的にも保険適用になる見通しは立っていないのが実情です。
医療機関によって治療費と倫理観に差がある
自由診療でTMS治療を行っている医療機関の中には、ビジネスの側面を重視して高額な治療費を設定しているところもあります。
また副作用が少ない治療法ですので、明らかな適応外治療や正しく治療適応が判断できていない中でのTMS治療も行われているのが現状です。
安心してTMS治療を受けられる医療機関を探していただく必要があります。
「電気けいれん療法」とは?
電気けいれん療法とは、脳に数秒間の電気刺激を与えて、一時的に脳のけいれんを誘発させる治療法です。
現在は麻酔をかけて体のけいれんを抑えながら電気刺激を加えるので、「修正型電気けいれん療法」、「Modified Electroconvulsive Therapy(m-ECT)」と呼ぶことが多いです。
名前にけいれんが付いていることで不安を感じる方もいるかと思いますが、実は安全性が高く、治療効果も優れています。
全身麻酔下で行うため昔は入院が必須でしたが、近年は外来で電気けいれん療法を取り扱う病院も増えてきました。
電気けいれん療法のメリット
電気けいれん療法のメリットとしては、以下の2つのポイントが挙げられます。
- 治療の有効性が高い
- 治療効果を感じるのが早い
治療の有効性が高い
電気けいれん療法は、「死にたい」「消えたい」などの希死念慮が切迫している緊急性の高い方にも用いられる治療法です。
また妄想をともなうような重度のうつ病にも有効な治療法で、最後の切り札として位置づけられることも多いです。
治療の有効性が高く、薬物療法で回復が見込めなかった方が電気けいれん療法を選ぶ場合もあります。
治療効果を感じるのが早い
電気けいれん療法は、治療の効果が他のうつ病治療と比較して早く認められます。
薬物療法で状態に変化が見られなかった方が、電気けいれん療法によって回復に近づいたケースも珍しくありません。
電気けいれん療法のデメリット
電気けいれん療法のデメリットとしては、以下の3つのポイントが挙げられます。
- 副作用が多い
- 治療の前の準備が必要
- 入院が必要な場合も
副作用が多い(TMS治療と比較した場合)
脳全体を一時的にけいれんさせる治療法のため、脳の一部のみを刺激するTMS治療と比べると、副作用は起こりやすいと言えます。
頭痛やめまい、嘔吐や筋肉痛など、どんな副作用を感じるかは人によってさまざまです。
最も多いのは、記憶に影響が出る健忘です。治療前後の記憶が抜け落ちる認知機能障害ですが、数日~数週間で回復することが多いです。
「副作用が起こりやすい」と聞くと不安な気持ちになる方もいるかと思いますが、電気けいれん療法は非常に安全性の高い治療法です。
電気けいれん療法がご自身に必要かもしれないと感じる方は、「副作用があるならやめよう……」と選択肢から除外せず、まずは医師に相談することをおすすめします。
治療の前の準備が必要
麻酔を用いて電気けいれん療法を行う場合は、麻酔を安全にかけるために6~12時間ほどの絶食が必要です。
また、麻酔をかける際は治療前に血液検査や心電図など、複数の検査が必要となります。
入院が必要な場合も
外来で電気けいれん療法を受けられる医療機関も出てきましたが、入院が必須な医療機関もまだまだ多いです。
「自宅を空けることが難しい」「ライフスタイルを優先させたい」などの方は、生活面の調整などが必要になるかもしれません。
「TMS治療」と「電気けいれん療法」の違い
ここまでは、TMS治療と電気けいれん療法の特徴についてお伝えしました。ここからは、それぞれの治療法の違いについて解説します。
①対象になる方
TMS治療の対象になる患者様は、薬物療法の効果が薄い方や、副作用が重くお薬を飲み続けることが難しい方になります。
TMS治療は副作用が少ないことが特徴の治療であるため、服薬を続けられなかったり、抵抗がある方がTMS治療を希望されることも増えてきました。
電気けいれん療法は、薬物療法の効果が薄い方、「死にたい」「消えたい」など希死念慮がみられる方、またうつ病の症状が重度で妄想を伴うような方が対象となります。
うつ病の初期症状の段階から電気けいれん療法を行うべきかは、まだ議論がなされている状況ですが、イメージの怖さもあり軽症の方はあまり希望されません。
②治療を受ける頻度&③治療を受ける回数
TMS治療は、患者様の状態にもよりますが週5日の頻度で5~6週間、およそ20~30回の治療が必要です。
1回の治療時間は3~30分と非常に短く、また治療後すぐに普段の生活に戻れるため、仕事や家事などの合間に治療を受ける方もいらっしゃいます。
また、短期集中治療では、最短2週間で十分な治療効果が期待できます。
電気けいれん療法は、週2~3日の頻度で3~4週間、およそ6~12回の治療が必要です。
最低でも5回は治療を行ったほうがいいと言われています。麻酔薬で眠った状態で治療を行うため、治療後すぐにいつも通りに動くことは難しいです。
外来で電気けいれん療法を受けられる医療機関も増えていますが、まだ入院が必要なところも多いため、治療後はそのまま入院になる方がほとんどでしょう。
生活面の調整が必要ではありますが、入院中に医師や看護師が治療後の状態を確認できるのは安心とも言えます。
④麻酔の有無
TMS治療では、治療に麻酔を使うことはありません。脳の一部分を刺激するのみなので、覚醒した状態で治療を行うことができます。
電気けいれん療法では、麻酔や筋弛緩薬を用いることで、脳に刺激を与えた際のけいれんを抑えます。
電流を流した際に筋肉がけいれんし、血圧の上昇や骨折の危険を伴う場合があるためです。
「麻酔を使う」と聞くと、大がかりな治療に感じて不安な気持ちになる方もいるかもしれませんが、あくまで治療の安全性をさらに高めるためです。
頻度の高い副作用
TMS治療は、薬物療法や電気けいれん療法と比較すると副作用が少ない治療法と言われています。
専用の機器を用いて脳の一部分を刺激するため、最初の1~2回は頭痛や刺激部位の痛みを感じる方もいますが、回数を重ねるごとに慣れていく方がほとんどです。
また、TMS治療は患者様が覚醒した状態で治療を行うため、違和感がある際はその場で治療をストップすることもできます。
患者さんの意向に合わせて治療を進められる点は、TMS治療のメリットと言えるでしょう。
電気けいれん療法の副作用としては、頭痛・吐き気・筋肉痛の他、最も多いのは健忘と呼ばれる認知機能障害です。
治療前後や最近の出来事を忘れてしまうことで、高齢の方によくみられます。
多くの方は、数日から数週間で消えていた記憶がよみがえります。
⑥事前の準備
TMS治療に関しては、患者さまのほうで必ずしなくてはいけない事前準備は特にありません。
生活の中で治療を行えるため、仕事や家事の合間にTMS治療を受ける方もいます。
電気けいれん療法の場合は、有効なけいれんを起こすために、リチウムや抗てんかん薬を服薬している方は事前に減量が必要です。
また、治療に麻酔を用いる際は、安全に麻酔を使用するために治療前の6時間ほどは飲食ができません。
TMS治療では、できればベンゾジアゼピン系の抗不安薬や睡眠薬を減量しておくと、治療効果が期待しやすくなると考えられています。
TMS治療と電気けいれん療法のエビデンス
TMS治療と電気けいれん療法は、治療抵抗性うつ病に対する治療効果という点では、ECT治療の方に軍配があがります。
治療抵抗性うつ病に対するECT治療とTMS治療を比較した研究(RCT)では、ECTが有意に寛解率も奏効率も高いという結果(寛解率51.7%対35%、奏効率66.1%対37.5%)となっています。
【治療抵抗性うつ病に対するrTMS:RCTのシステマティックレビューとメタアナリシス】
さらには、精神病症状を伴ううつ病ではECTの方が効果が顕著であることが分かっています。
精神病症状とは、「貧困妄想」「心気妄想」「罪業妄想」に代表されるような微小妄想がみられる場合で、現実離れした自己の低い評価をしてしまい、それを確信してしまっている場合です。
このような状態では入院治療となることが多く、こういった患者さんではECT治療の方が治療効果が優れています。そもそも外来でのTMS治療は難しい状態です。
その一方で、このような精神病症状がないうつ病においては、TMS治療はECTと同等に効果的であることが示されました。
【大うつ病に対する反復経頭蓋磁気刺激法と電気けいれん療法の比較:系統的レビューとメタアナリシス】
このようにECTは重度での治療選択肢となり、希死念慮が強まっていたり、精神病症状があったりする場合は、TMS治療よりもECTの方が治療効果も優れています。
「TMS治療と電気けいれん療法の違い」のまとめ
今回は、TMS治療と電気けいれん療法の違いについて、詳しく解説しました。以下に、この記事のポイントをまとめます。
- TMS治療とは、磁気を利用して脳をピンポイントに刺激する治療法
- 電気けいれん療法とは、電気刺激を用いて一時的に脳にけいれんを誘発する治療法
- TMS治療は副作用が起きにくく、薬物療法の副作用が重い方の治療選択肢
- 電気けいれん療法は名前の響きによって危険性があると誤解されやすいが、安全性は高く、治療の有効性も高い
- うつ病の症状が重い、精神病症状を伴っている、もしくは自殺や死の危険性がある場合は、電気けいれん療法を選んだほうがいい
当院のTMS治療について
ここまで記事をお読みいただき、TMS治療にご興味を持たれた方は、ぜひ当院までお気軽にご相談ください。
当院では、心の臨床経験が豊富な医師が診察を行います。
また、関東を中心とした全国の病院と医療連携を行うことで、豊富な症例数を確保しています。
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【お読みいただいた方へ】
医療法人社団こころみは、東京・神奈川でクリニックを運営しています。
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医療職はもちろんのこと、法人運営スタッフ(総合職)も随時募集しています。
また、当法人ではTMS診療の立ち上げ支援を行っており、参画医療機関には医療機器を協賛価格でご紹介が可能です。
ご興味ある医療者の見学を随時受け付けておりますので、気軽にお声かけください。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:こころみ医学 投稿日:2021年10月22日
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