禁煙(ニコチン依存症)とTMS治療
禁煙治療にTMS治療は、アメリカで正式に適応が認められています。
しかしながらその方法はdeepTMSと呼ばれる深部刺激法になり、うつとは機器と方法が異なります。
一方で、うつと同じDLPFCの刺激での禁煙効果のエビデンスレベルCと低いものの、効果がある可能性が示唆されています。
お薬やパッチなどの治療と併用する方法などでの効果も報告されています。
ここではニコチン依存症についてお伝えし、近年、依存症治療への活用が進められているTMS治療についてお伝えしていきます。
ニコチン依存症とは?
タバコをやめるのは大変かと思います。
タバコが健康に良くないことは十分わかっていますし、年々でタバコ代も上がっていきます。
それでも禁煙ができないことは、いまではニコチン依存症という病気とみなして治療することができます。
禁煙できない原因
禁煙できない原因は、「意志が弱いから」と思われている方も少なくありません。
確かにニコチン依存症は、タバコに対する精神的な依存もあります。
その原因としては、中脳辺縁系と呼ばれる報酬系と呼ばれる仕組みが大きいと考えられています。
側坐核と呼ばれる部分からドパミンの分泌が促され、強い快感が得られます。
それ以外の物質に対する作用もあわせて、ニコチンは快感や覚醒効果、リラックス効果などがもたらされます。
離脱症状でやめられない
タバコがやめられないもう一つの理由が、身体の依存で引き起こされる離脱症状になります。
からだにニコチンがあることが当たり前になると、急になくなったときにバランスが崩れ、不快な症状となります。
こうした禁断症状から禁煙に失敗してしまうと、ますます禁煙が困難となってしまいます。
お薬での治療だけでは難しい場合
禁煙のお薬での治療は、おもに身体依存を和らげる効果が期待できます。
そのうえで心理的なサポートをあわせて、禁煙達成を目指していくのが一般的な禁煙外来になります。
TMS治療はニコチンに対する渇望を軽減する効果が期待でき、これまでの治療効果を高める可能性があります。
禁煙に失敗している方は、TMS治療も併用することでより禁煙達成がしやすくなる可能性があります。
禁煙治療について詳しくは、禁煙外来のページ(元住吉こころみクリニックHP)をご覧ください。
禁煙治療に対するTMS治療方法と費用
rTMSを行うことで、禁煙達成率を高めることが期待できます。
現状としてはアメリカで適応を受けている方法で実施することは困難です。
しかしながらTMS治療によって、ニコチンに対する渇望を軽減することができると考えられています。
禁煙治療のTMS治療プラン
禁煙目的でのTMS治療としては、日本では以下の方法で行うことができます。
- 左背外側前頭前野への高頻度刺激
実行機能を高める
背外側前頭前野(DLPFC)という領域は、実行機能に関係しているといわれています。
この部分を高頻度刺激で活性化することで、衝動性を軽減してコントロールを強化できるようにしてくれるのではと考えられています。
rTMSを行うことでもドパミンが放出されるので、報酬系に対するニコチン作用に近い働きをするとも考えられています。
このためrTMS治療を左背外側前頭前野に行うことで、タバコによるニコチンがなくなっても渇望が抑えられると考えられます。
待てるようになる
少し難しい概念になりますが、依存を考えるときには遅延割引という考え方が必要になります。
遅延割引とは、時間がたつと価値が低下してしまうことです。具体的にお伝えするとイメージしやすいのですが、「今の1万円」と「10年後の5万円」ならどちらがよいかといわれれば、今の1万円を取る方も少なくないかと思います。
ニコチンをはじめとした依存症では、今の価値が高まりすぎて遅延割引が大きくなっています。左DLPFC高頻度刺激では、この遅延割引を減少させるという報告があり、このため渇望が抑えらる可能性があります。
禁煙治療の特殊TMS治療
禁煙治療でのTMS治療は、deepTMS治療(dTMS)という特殊な治療法になります。
アメリカで認可されているのはbrainsway社のH4コイルという特殊なコイルを使った方法となり、こちらは日本では実施することができません。
両側の外側PFCと島に対して高頻度刺激を行う方法で、1回で18分の時間がかかります。
5日連続で3週間行い、その後に週1回で3回の刺激を行っていくのが標準プロトコールとなっています。
また喫煙につながるような刺激を加えて、関係する脳回路を活性化させながら行っていきます。
当院でのTMS治療費
当院の治療費については、機械の使用時間をもとに設定しております。
- 左高頻度刺激:10分枠 6,930円(税込)※継続5,280円~
治療費について詳しくは、TMS治療費のページをご覧ください。
ニコチン依存症(禁煙)でのTMSのエビデンス
こちらの論文によれば、左DLPFC高頻度刺激のみ効果が期待できる可能性(グレードC)があるとされています。
左DLPFC高頻度刺激での効果が期待できるといっても、グレードCですので将来的には変わる可能性もあります。
論文について詳しくは、【ニコチン消費と渇望におけるrTMSの効果:システマティックレビュー】をご覧ください。
TMS治療が有効とする論文
セルフヘルプ法を行っている喫煙者29人で、8回の左DLPFC高頻度刺激と偽刺激をランダムにわからないようにして比較した結果、再発の相対リスクを3分の1に減らせたと報告されています。
【TMSによる喫煙再発防止:実現可能性と潜在的な有効性】
ニコチン依存に限らずアルコールや薬物も含めた物質依存の患者さんでは、左DLPFC高頻度刺激のみが渇望を抑えて、左DLPFC高頻度刺激・両側DLPFCと島の興奮性deepTMS刺激では物質消費が抑えられたという報告があります。
【物質依存患者での渇望と物質消費に対するTMSの効果:システマティックレビュー&メタアナリシス】
またうつ病に対するDLPFCに対する高頻度刺激を行った際には、タバコの消費や渇望を減らし、不安症状を軽減することが示されました。
【ニコチン依存症と不安、うつでのDLPFCに対する高頻度rTMSの二重盲検ランダム化比較試験】
他の治療と組み合わせが良い
禁煙治療でのTMS治療は、他の治療法との組み合わせでも効果が示されています。
右DLPFC低頻度刺激をニコチンパッチでの治療に組み合わせることで、禁煙率と渇望スケールの低下が認められましたが、効果の持続は示せませんでした。
【禁煙のためのニコチン代替療法と併用したTMS:ランダム化比較試験】
その一方で、禁煙の認知行動療法に加えてiTBSを4セッション行ったところ、短期的な禁煙率の改善が認められたという報告もなされています。
【心理療法にiTBSを追加してニコチン依存が改善できるか?:パイロットスタディ】
アメリカで適応となった禁煙TMS治療法
一方で、FDAで適応となっているのは、deepTMSによる治療法になります。
禁煙に失敗した115人に対して、両側の外側PFCと島をdeepTMSで高頻度深部刺激に刺激を行いました。
高頻度と低頻度と偽刺激を行ったところ、高頻度刺激でタバコ消費量とニコチン依存症を大幅に減少したとする結果が示され、また喫煙の合図を提示してから行う方が良いことが報告されました。
【前頭前野および島皮質のdeepTMSによる禁煙:前向きランダム化比較試験】
これをうけてブレインズウェイ社の開発したH4コイルを使って262人の大規模な研究を行い、継続的な禁煙率の改善と渇望と平均喫煙本数の改善が報告されました。
【ブレインズウェイ社HP】
これをもとに、FDAで2020年8月、TMS治療としては3つ目の適応疾患として認められました。
【FDAでのBrainsWayの認可】
ニコチン依存症での薬物療法
いわゆる禁煙外来では、お薬による治療を行っていくことが一般的です。
どちらかのお薬の力を借りながら、3か月かけて5回の通院で治療していくことが一般的です。
呼吸機能検査などで肺機能を測定し、禁煙への強い意欲をもって治療に臨んでいく必要があります。
薬に頼らない新しい治療法
最近では禁煙アプリが開発されて、「アプリを処方する」ということが広まっていくかと思います。
禁煙アプリは、禁煙についての知識などを理解いただくことでセルフサポートを行い、さらには認知行動療法でのサポートをアプリを使って行っていきます。
CureApp社の「ニコチン依存症治療アプリとCO チェッカー」が保険承認されようとしています。自己負担は7,500円ほどになります。
またTMS治療は、禁煙治療の補助として同様に有効です。
金銭的な負担はTMS治療の方が多くなってしまいますので、アプリやお薬で日頃から意志をもちながら治療していくことが合わない方や、パーソナルジムに通うように覚悟をきめて禁煙したい方の治療選択肢になると思われます。
TMS治療をご検討の方へ
このようにTMS治療によって、禁煙治療の成功率を高められる可能性があります。
しかしながら適切なTMS治療を行っていくためには、TMS治療の知見はもちろんのこと、前提となる心の治療経験が非常に大切です。
当法人では内科での禁煙外来も行っており、TMS治療と合わせて行うことが可能です。
また10名の精神科医が在籍していますが、両方に精通した医師4名のみ(2021年9月現在)が担当させていただきます。
TMSは治療選択肢のひとつとして、患者さんの立場に立ってご相談させていただきます。
TMS治療にご興味お持ちの方は、東京横浜TMSクリニックにご相談ください。
執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了