TMS治療(経頭蓋磁気刺激療法)とは?
rTMS治療(repetitive Transcranial Magnetic Stimulation)は、日本語に直訳すると、「反復経頭蓋磁気刺激療法」となります。
TMS治療は、脳に直接アプローチしてシナプスの働きを整える革新的な治療方法です。
うつ病では薬物療法と心理療法と並び、第3の治療法として、2019年よりTMS治療の適応が認められています。
ここでは、TMS治療についての概要をお伝えしていきます。
rTMS治療とは、何の略?
rTMSは、repetitive Transcranial Magnetic Stimulation(反復経頭蓋磁気刺激療法)の略になります。
簡単に言えば、脳に繰り返し磁気を利用して電気刺激を与えることで、脳の働きを正常に制御していく治療法です。
脳を刺激する…と聞くと怖いイメージもあるかもしれませんが、副作用も少なく、安全性の高い治療法になります。
- “Trans” … 反対側へと超える
- “Cranial” … 頭蓋骨の
- “Magnetic” … 磁気の
- “Stimulation” … 刺激
繰り返し磁気の変化を引き起こすことで、頭蓋骨を超えて内側に電気を引き起こし、それによってピンポイントに電気刺激を行うことができます。
それによってバランスの崩れた脳の働きを正常化することが出来る、とても画期的な治療法になります。
rTMS治療の歴史
基礎研究から脳刺激までの道のり
TMSは日本ではまだ2019年に保険適用診療として認定されたばかりの新しい治療方法ですが、その基礎は19世紀前半にさかのぼります。
1834年にファラデーの法則(電磁誘導の法則)が発見され、電流と磁場の関係が研究されるようになりました。
19~20世紀にかけて、発電機や変圧器、電車などに活用されていきました。
この知見を、脳のピンポイント電気刺激に活用したのが1985年のことになります。
アンソニー・ベイカーによる公開デモンストレーションより知られるようになり、痛みを伴わない脳刺激法として神経の診断や基礎研究目的で広く使われるようになりました。
心の治療への応用
そして1990年代前半になり、心の治療目的での臨床研究が本格的にスタートしました。
アメリカや欧州で治療適応となったのが2008年になり、それから10年以上にわたって治療がすすめられています。
TMS治療は海外ではセレブの治療法となっており、TMSクリニックがチェーン展開されています。
このようにTMS治療は、電磁誘導そのものと人体への影響に関する長い研究の下積みのもとで培われてきましたが、現在も様々な病気で研究が進められている治療法になります。
日本国内では、2017年9月に治療機器としての適応が、2019年6月に治療としての保険適応が認められました。
メカニズムと効果
TMSは、「ニューロモデュレーション(Neuromodulation)」と呼ばれる治療法のひとつです。
ニューロモデュレーションとは、ニューロ(神経)とモデュレーション(調節)という言葉に表される通り、専用機器を用いて神経の機能を調整する治療です。
特殊なコイルに電流を流すことで磁場を発生させ、その磁場を変化させることで脳の中に誘導電流(渦電流)を引き起こしてピンポイントで刺激します。
刺激の頻度やパターンを変化させることで様々な調整が可能で、画期的な治療法として、うつ病や強迫性障害といった心の病だけでなく、慢性疼痛や神経疾患など、幅広い分野で研究が進んでいます。
TMS治療のメカニズム抗うつ効果のメカニズム
TMSでは、瞬間的に磁場を変化させることで磁気の力を電気に変え、脳をピンポイントで刺激します。
それによって脳の機能的な変化を引き起こし、様々な効果が発揮されることがわかっています。
その中でエビデンスが確立されているのが、抗うつ効果です。
脳の中の神経同士の結びつきが柔軟になること(神経可塑性を高める)で、脳が本来持つ機能が回復されると考えられています。
動きが鈍っていた脳の一部が活性化されることにより、心身のバランスが回復します。
結果として、気分が晴れたり、頭がすっきりしたり、不眠が解消されたり、意欲や興味が自然とでてくるようになったり、前向きな効果につながります。
効果の発現率については、およそ3人に2人の割合で一定以上の改善効果が得られると考えられています。
rTMS治療を20回ほど行った時点で効果を判定していくことが一般的ですが、早い方は5~6回で効果が認められます。
TMS治療の効果TMS治療の5つの特徴
1.メカニズムが異なる治療効果
治療抵抗性うつ病(薬物治療がうまくいかない)の方に対しても、おおよそ3~5割の割合で寛解(元の状態に戻る)となり、およそ3人に2人に一定以上の改善効果が見られます。
薬による治療と同等の効果が認められており、自由診療では初めからTMS治療を行うことも可能です。
ただし、繰り返し治療を重ねていくのがTMSですので、少なくとも週2回以上、なるべく頻回での通院加療が必要となります。
2.副作用がほぼない
血液を通して体全体に副作用の可能性がある薬物治療と比べると、ピンポイントで刺激するTMSの場合、治療後の副作用が少ないことが非常に大きな特徴です。
頭痛や吐き気などを催される方もいらっしゃいますが、多くの場合が少しずつ慣れていきます。
3.安全性の高さ
TMS治療では、電気けいれん療法に比べても体への負担が少なく、治療そのものに伴うリスクが非常に低いことが特徴です。
稀ですが重篤な副作用に「けいれん発作」がありますが、リスク因子がない方には非常に頻度が低く、安全な治療法といえます。
4.治療時間の短さと効果の早さ
一回の治療時間は3分~30分と非常に短く、治療後の心身への負担も非常に少ないです。
このため仕事などの合間などに通院して、治療後すぐに生活に戻れることも大きなメリットと言えるでしょう。
薬のように飲み忘れることもなく、「通院のときだけ」で治療が行えます。
また短期集中治療では、最短で2週間で十分な治療効果が期待でき、回復を急いでいる場合には有効な治療方法となります。
5.再発の少なさ
TMS治療は、薬物療法に比べて再発率が低いことが分かっています。
1年後の再発率は1~3割といわれています。
再発リスクのある方には維持TMS治療も行えるため、お薬に比べて再発しにくい治療と考えられています。
抗うつ剤と併用することで、さらに再発率は低下すると考えられています。
2つの適応疾患
うつ症状
TMS治療の適応疾患といえば、まずはうつ病でしょう。
2008年にFDAが認可したことからもわかるように、うつに対するTMS治療の効果は、欧米では確固たるものとなっています。
欧米に遅れること10年、日本においても2019年6月に厚生省による保険認可が下りたことをきっかけに、専門家の間でTMS治療は非常に注目が集まっている分野です。
うつ病とTMS治療強迫症状
日本国内での保険適用が認められているのは現在のところ「うつ病」に対してのみですが、アメリカではすでに「強迫性障害」の治療法としても正式に認可されています。
ただし、その治療法は特殊で専門性が必要となり、うつの治療とは刺激部位や機器が異なるため、deepTMS(dTMS)と呼ばれて区別されています。
強迫性障害は治療の難しい病気のひとつで、「うつ病」を併発することがよくあります。
日本での適応は未だですが、当院ではアメリカのFDA認可と同じ方法でのTMS治療をいち早く導入し、実施可能です。
強迫性障害とTMS治療その他の病気
TMSは発展途上の医療技術ですので、まだまだ研究段階にあり、治療方法としては確立していない分野が多数あります。
うつや強迫以外の分野においても、TMSの有効性を示唆するデータやエビデンスが日々蓄積されつつあります。
東京横浜TMSクリニックでは、欧米の医療現場で導入された最新の治療技術をいち早く取り入れ、ひとりでも多くの患者さんの苦しみを軽減するサポートをさせて頂きたいと考えています。
TMS治療の適応疾患副作用とリスクについて
TMS治療の最大のメリットのひとつは、その安全性の高さです。
治療中の副作用について
脳に刺激を与えるというと少し不安を覚える方もいらっしゃるかもしれませんが、安全性については海外における臨床データの蓄積からも実証されています。
薬のように目立った副作用がないのはもちろん、治療中の不快感も慣れていくことがほとんどです。
最初の1~2回目の治療中にちょっとした頭痛を覚えたり、気分が少し悪くなる方は少なくありませんが、回数を重ねているうちに違和感が消えていきます。
また、どうしても気分が悪くなった場合にはすぐに治療を止めることができるため、TMS治療はそもそもが極めて安全性の高い治療法なのです。
とはいえ、もちろん副作用のリスクが全くない、というわけではありません。
TMS治療中に起こり得る副作用として知られているのは、以下の4つになります。
1.頭痛・顔の痙攣・不快感
TMSの刺激が加わるたびに頭部の筋肉が収縮するため、それに伴う頭皮や頭蓋の違和感や痛みというのはある程度は伴います。
また、人によっては顔の一部がぴくぴく痙攣したり、不快感を感じることも。
TMS治療はほとんどの方にとって初めての経験になるため、慣れるまでは不安から刺激時の痛みが増してしまう「ノボセ効果」も見られますし、与える刺激の強さによっても感覚は異なります。
ただ、これらの痛みや違和感は治療中だけの感覚であり、治療後にも継続的に苦しませる副作用でありません。
多くの場合は数回TMS治療を行うことで心理的にも慣れてくるため、治療の間ずっと痛みを感じ続けることは非常に稀です。
もしも治療中にひどい頭痛が発生したり、顔の痙攣や不快感を感じた場合には、効果を損なわない範囲でコイル位置を調整します。
刺激強度を下げて少しずつ慣らしていく場合もあります。
2.聴力やめまいに関連する症状
TMS治療では、磁気刺激のノック音が頭の中に響きます。
ほとんどの方は問題ないのですが、治療中に耳鳴りやめまいなどを覚えた場合、ごくまれに聴力低下等につながることがあります。
耳栓を使うと音量が30db程度低下しますので、予防策として治療開始前に耳栓をつけていただくのも方法です。
治療時の音が聴力に影響を及ぼすことはまずありません。
3.急性の精神症状変化
稀にですが、イライラが増したり、不眠が強まることがあります。
多くの場合は双極性(bipolarity)があり、うつ状態から反転して躁状態に転じる「躁転」の可能性があります。
ただし、治療を必要とするような操転のリスクは、双極性障害の患者さんであっても1%にも満たないと報告されています。
このような状態が認められた場合は、低頻度刺激に刺激方法を切り替えていく場合が多いです。
4.失神や全身けいれん
非常に稀にですが、不安や恐怖感が引き金になって失神してしまったり、けいれんが引き起こされる場合があります。
多くの場合が迷走神経反射と呼ばれる失神で、採血や注射の際に失神してしまうのと同様です。
けいれん発作が生じる患者さんは何らかの原因があることが多く、薬物やアルコールなどの深刻な問題を抱えており、脳が委縮してしまっているなどのケースが多いです。
寝不足や低血糖、アルコール摂取状態やお薬の影響(三環系抗うつ薬など)などもリスクを高めるといわれています。
ガイドラインに従って1週間に15,000発以内の刺激数にとどめることで、治療方法に起因するけいれんリスクは、まず回避できます。
よくあるTMS副作用にまつわる誤解
TMS治療は、磁力や脳への刺激というイメージから、よく下記のような誤解を受けますが、これらは事実ではありません。
TMS治療はむしろ認知機能や片頭痛治療なども研究がなされており、「非侵襲的(体を傷つけることがない)脳刺激法」と考えられています。
TMS治療の副作用と安全性TMS治療が向いている方
TMS治療が行えない方
TMS治療は、以下の方は安全性の観点から行うことができません。
- けいれんのリスクが高い方
- 頭頚部に金属や精密機器がある方
TMS治療は磁場を発生させますので、刺激近くに金属や精密機器がある場合は行うことができません。
TMS治療のメリットとデメリット
TMS治療のメリットとしては、
- 異なるメカニズムで薬が効かない方にも可能性あり
- 副作用が少なさと安全性の高さ
- 短い治療期間でも効果が期待可能
- 再発率の少なさ
これらが挙げられます。一方でデメリットとしては、
- 最低週2回の頻回通院が必要となること
- 再発予防法が確立されていないこと
- 自費診療中心で金銭的な負担が大きいこと
これらが挙げられます。
TMS治療の向いている方とは?
このためTMS治療が向いている方としては、
- お薬の効果が不十分な方
- お薬の副作用に抵抗がある方
- 短期集中で治療を行いたい方
などに向いている治療法になります。
TMS治療と薬物療法の比較TMS治療費の相場
TMS治療をご検討の方へ
TMS治療の目的は、患者さんにとっても様々です。
目的にあわせて適切な治療をご提案していくためには、TMS治療の知見はもちろんのこと、前提となる心の治療経験が非常に大切です。
当院には10名の精神科医が在籍していますが、両方に精通した医師4名のみ(2021年9月現在)が担当させていただきます。
TMSは治療選択肢のひとつとして、患者さんの立場にたってご相談させていただきます。
TMS治療にご興味お持ちの方は、東京横浜TMSクリニックにご相談ください。
執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
監修者紹介
野田 賀大
慶應義塾大学医学精神・神経科学教室特任准教授/当院顧問
精神科専門医/指導医/精神保健指定医