TMS治療の適応疾患

TMS治療は、日本ではうつ病に正式な適応が認められています。

アメリカでは、うつ病・強迫性障害・ニコチン依存症での適応が認められている治療法です。

またリハビリ領域では、麻痺や疼痛に対しての効果が報告されています。

それ以外にも幅広く行われているTMS治療について、エビデンスに基づいてご紹介していきます。

1.rTMS治療はうつ病で正式に適応

rTMS治療はうつ病で正式に適応:イメージ写真

rTMS療法は、日本でも正式に認められています。

その適応としては、「治療抵抗性うつ病」もしくは「治療不耐性うつ病」の方に対する治療法になります。

治療抵抗性とは薬物治療を行っても改善が見られないということを意味し、治療不耐性は薬物療法の副作用が大きく続けることができない方を指します。

つまり分かりやすく言うと、「お薬と相性の悪いうつ病の方」となります。

お薬がダメならTMS治療?

このようにお伝えすると、お薬を使ってみないとrTMS治療を受けられないと思われるかと思います。

たしかに保険診療では、お薬による治療を行ってうまくいかなかったことが前提条件の一つとなっています。

なぜお薬が優先されるのかというと、rTMS治療は再発予防に対する方法が確立されていないためです。

しかしながらうつ病に関しては、rTMS治療の効果は明らかです。

さらには、他の病気に伴ってうつ症状になった場合にもTMS治療は有効であるケースが多いと報告されています。

【TMSによるうつ病と併存疾患の治療】

当院でのうつ病TMS治療

このため当院では、うつ症状については広くrTMS治療を実施しています。

お薬に抵抗がある患者様もご相談ください。

また、お薬による治療とrTMS治療を同時に行うことは可能で、むしろ相乗効果が期待できたり、減薬につながる場合もあります。

すでにお薬による治療中の方もご相談ください。

うつ病とTMS治療

2.強迫性障害も適応

アメリカFDAはうつ病だけでなく、強迫性障害にもTMS治療を認可しています。

当院では、この認可された強迫性障害に対する治療プロトコールを行うことができます。

日本初のアメリカFDA認可治療が行えるクリニック

当院はアメリカFDA認可の2大疾患に対するTMS治療を行える日本初のクリニックになります。
※アメリカでは2つのデバイスが認可されており、日本で購入可能なマグプロでは、当院が初めて治療導入しました。

治療法は特殊で、deepTMS治療という特殊な治療デバイスが必要となります。

また、心理療法や薬物療法など総合的に治療判断を行っていく必要があり、技量と知識が必要となります。

強迫性障害の特殊TMS治療

うつ病とは異なる部位(前帯状皮質:ACC領域・背内側前頭前野:dmPFC)に、深く刺激(deepTMS)する必要があります。

また脳の深部に刺激をするため、けいれん発作のリスクが高まるといわれていますので、安全性に対する備えが必要になります。

強迫性障害とTMS治療

3.リハビリ領域も有効

 

TMS治療は、リハビリ領域でも活用されています。

おもに「疼痛」と「麻痺」の治療目的で、リハビリの効果を増強させる目的で使われています。

脳が左右での機能バランスをとることを利用して、症状と反対にある健康な部分にアプローチすることで、病気の部分に間接的にアプローチします。

当院ではこの領域で豊富なTMS治療経験をもつ医師のもと、リハビリとTMS治療を同時に行う方法で治療を開始します。(2023年9月頃より)

当院でのリハビリTMS治療

「疼痛」と「麻痺」に対して、症状ごとに適した刺激ターゲットを設定し、適したリハビリを行っていきます。

慢性疼痛とTMS治療 運動麻痺とTMS治療

4.双極性障害にもTMSの効果期待あり

双極性障害にはTMSは効果がない?:イメージ写真

「双極性感情障害のうつ状態にも効果があるか?」というお問い合わせをいただくことも多いです。

結論から言うと、「うつ病ほどの効果はまだ示されておりませんが効果はあるだろう」と考えられています。

躁状態に転じてしまう、いわゆる「躁転」のリスクが懸念されていますが、非常に少ないだろうと考えられています。

双極性障害のうつ状態は苦しみも多いのですが、効果が期待できる治療薬も限定されてしまいます。TMS治療も一つの選択肢となります。

双極性うつ状態の適応を目指して

このため近年では、rTMS療法の刺激頻度や強度、部位を工夫することで双極性障害への治療適応も検討されるようになりました。

日本でも一部の大学病院や総合病院で臨床研究の枠組みで行われており、今後の適応拡大も期待されて治験も開始されています。

当院でもその治療プロトコールにあわせて、双極性障害のうつ病相に対する治療を行っています。

しかしながら双極性障害の場合、TMS治療の位置づけを正しく理解して治療に取り組む必要があります。

あくまで急性期のうつ状態に対してのTMS治療が基本となります。

双極性障害とTMS治療

5.ADHDや発達障害に対して効果が期待できるのか

ADHDや発達障害に対して効果が期待できるの:イメージ写真

ADHDをはじめとした発達障害で、TMS治療を他院ですすめられてご相談されることが非常に多くなっています。

ADHD特性など発達特性を改善するのは難しいといえます。

いくつかの臨床研究はある一方で精度が極めて低いものしかなく、その結果も矛盾しています。

一時的に治療効果を感じたとしても、その効果が持続する可能性は極めて低いといわざるを得ません。

  • どの症状に効果が期待できるか
  • 発達特性に効果があるのか

については不明になります。

TMS治療が発達障害に期待できる効果

        

発達障害の特徴を伴ううつ病の方であれば、そのうつ症状や不安への治療効果は期待できます

ですが発達障害を併発していると、そうでない方と比べてうつ症状への治療効果は低下します。

当院では、発達障害の情動の安定からお困りの症状改善を意識してTMS治療を行っております。

良いことばかりを信じないで

発達特性に効果が期待できるかどうかについては、質の高い研究はなされておらず、少なくとも現在の刺激方法やプロトコールでは実験的です。

また一時的に効果が認められた気がしても、本質的な改善につながるという過度な期待は持たないほうが良いです。

とくに小さなお子さんでは、rTMSは神経の結びつきに関係する治療(神経可塑性を誘導)になりますので、脳の発達過程にあるため倫理的にも行うべきではないと思われます。

発達障害とTMS治療
ADHDとTMS治療

6.過食症(摂食障害)に対して効果が期待できるのか

摂食障害(過食)に対して効果が期待できるのか:イメージ写真

摂食障害でのrTMS治療についても、最近お問い合わせが増えています。

摂食障害に対するrTMS療法についても、効果が持続するかは不明といわれています。

効果があったとしても、

  • 情動の安定による過食の軽減
  • 一時的な過食衝動の抑制

が中心になります。

BMI15未満など明らかに低栄養状態がひどい場合は、TMS治療は不適切で入院加療が望ましいです。

本質的な改善が大切

しかしながら摂食障害は複雑な心理的要因が背景にあることが多く、TMS治療が本質的な治療とはならないことも多いです。

摂食障害にうつ症状が伴っている場合には、そのうつ症状への治療効果は期待できますが、純粋なうつ症状よりも効果は薄まるといわれています。

当院では、摂食障害のうつ症状の改善と、あわせて過食衝動の抑制を期待していく場合もありますが、あくまで摂食障害としての程度が軽い場合のみ(むちゃ食い障害が中心)になります。

過食症(摂食障害)とTMS治療

7.その他の疾患では効果がないの?

その他の疾患では効果がないの?:イメージ写真

TMS治療は、さまざまな病気での効果が研究されています。

それをもとに、文字通り「自由」に各医療機関が診療を行っています。

TMS治療自体は副作用が少なく、安全性も高い治療法になります。

それがゆえに大きな事故もおこりにくいのですが、なんでも効果があるというものではありません。

その効果はプラセボ?

お薬にもいえることですが、TMS治療にもプラセボ効果があります

研究の現場では、sham刺激という偽の刺激を加えた患者さんでも効果が認められます。

ですからどのような治療でも、効果がある方は一定数いらっしゃるかと思います。

患者さんが良くなるならば決して悪いことではありませんが、行き過ぎているケースも少なくないのが実情です。

当院の考え方

当院としては、科学的な根拠と実臨床での有用性のバランスを大切にしたいと考えています。

ご指導いただいている慶應大学の野田先生とも相談させていただきながら、これまでの心の診療での臨床経験をふまえて、患者様にとって効果が期待できるTMS治療については、自由診療の良さを生かして積極的に取り組みたいと考えています。

8.海外での適応

現在、海外で治療適応が認められている疾患としては、

となっています。

ニコチン依存症も適応

当院とは異なるデバイスになりますが、ニコチン依存症に対する適応がFDAで認められています。

禁煙(ニコチン依存症)とTMS治療

禁煙補助薬での治療が困難な場合になりますが、TMS治療は渇望を抑える効果が期待されています。

なお、rTMSはリハビリ領域でも治療法として取り入れられています。

脳梗塞後の麻痺や失語などについても、リハビリテーションを行う前にrTMSを行うことで、治療効果を高めています。

9.当院のTMS治療で扱う疾患

発達障害ADHD摂食障害などでご相談いただくことも少なくありませんが、治療効果が期待できるかは患者さんの状態によって異なります。

患者さんの立場に立って説明させていただいたうえで、納得いただける効果がありましたら治療開始とさせていただきます。

その他の病気について

パニック障害PTSDといった特徴的な不安障害などでご相談いただく場合があります。

また慢性疼痛にも、TMS治療は効果が期待されています。

一般的な治療の流れをご説明させていただいたうえで、期待できる効果に納得いただいたらTMS治療を導入させていただきます。

慢性疲労症候群ブレインフォグHSP脳疲労といった、概念があいまいで様々な原因が考えられる病気でのご相談をうけることもあります。

これらについては経験ある精神科医が診察したうえで、症状の判断をしっかりと行っていく必要があります。

TMS治療以外の選択肢も含めて、総合的に判断していく必要があります。

よくあるご相談目的

また、以下の目的の方にTMS治療を活用させていただいています。

TMS治療の正式な適応が認められるためには時間がかかるため、当院では明らかに効果が期待できる疾患に対しては、少しずつ治療を広げていきたいと考えています。

TMS治療をご検討の方へ

TMS治療の効果の強みと、向いている患者様をまとめた図表

適切なTMS治療を行っていくためには、TMS治療の知見はもちろんのこと、前提となる心の治療経験が非常に大切です。

当院には10名の精神科医が在籍していますが、両方に精通した医師4名のみ(2021年9月現在)が担当させていただきます。

TMSは治療選択肢のひとつとして、患者さんの立場にたってご相談させていただきます。

TMS治療にご興味お持ちの方は、東京横浜TMSクリニックにご相談ください。

大澤 亮太

執筆者紹介

大澤 亮太

医療法人社団こころみ理事長

日本精神神経学会

精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了